#065 「準備のざわめき」
結婚式まであと数日。
特別クラスの教室は、ふだんの授業よりも盛り上がっていた。
「ねえねえ、ドレスってどんなのがいいと思う?」
美弥が雑誌を広げ、はるなといちかに見せる。
表紙には色鮮やかなドレス姿のモデルが並んでいる。
「すごく綺麗……」
はるなは思わず見入ってしまった。
「こういうのって、夢みたいだよね」
「私は青がいいかな。花嫁さんじゃないけど、式場で映えると思うし」
いちかは真剣にページをめくりながら呟く。
「はるなは?」
美弥が意地悪そうに笑う。
「白、着てみたら? ……ほら、将来の予行演習」
「ええっ!? そ、そんなの無理だよ!」
はるなの顔が一瞬で真っ赤になる。
「ただの参列なのに……」
「でも、きっと似合うよ」
いちかが無邪気に言うと、はるなはさらに俯いた。
その頃、男子チームは別のテーブルで打ち合わせをしていた。
「タキシードって……どう着るんだ?」
想太は説明書きを見ながら青ざめている。
「おいおい、自信持てって! 俺なんか絶対似合うからな!」
隼人は胸を張り、すでにポーズを決めている。
「自分で言うなよ……」
想太が呆れると、要が冷静に口を挟む。
「大切なのは姿勢と態度だ。服に着られないこと」
「要はそういうの慣れてそうだな……」
隼人がぼやくと、要は肩をすくめるだけだった。
「想太はネクタイ結べる?」
いちかが近寄って問いかける。
「え、あ……あんまり自信ない……」
「じゃあ練習しよう。私、教えてあげる」
にっこり笑ういちかに、想太は助けられたように頷いた。
「はるなはどんな色にするの?」
美弥が再び話題を戻すと、はるなは迷いながら答えた。
「えっと……落ち着いた色かな。あんまり派手じゃなくて……」
「ふーん。まあ、ドレスって結局は誰の隣に立つかで印象変わるしね」
美弥が意味深に笑う。
「な、なにそれ!」
はるなは慌てて両手を振った。
「こっちも準備完了だ!」
隼人が大声で宣言し、要は「まだ何もしてないだろ」と冷静に突っ込む。
笑い声が絶えない教室。
けれど誰もが心の奥で、初めて触れる「大人の世界」に胸を躍らせていた。
――SP君の結婚式。
それは6人にとって、背伸びと期待の始まりでもあった。




