#064 「突然の招待状」
放課後の教室。
学園祭と体育祭を終えたばかりの特別クラスには、まだ余韻のような笑い声が残っていた。
「ふぅ……ようやく一息つけるな」
要が机に腰掛けると、隼人がどかっと椅子に座り込む。
「全力出しすぎて筋肉痛だ。明日歩けるか心配だぜ」
「でも楽しかった!」
美弥が机に頬を乗せながら笑う。
「まだちょっと足がだるいけどね」
そんなとき、教室のドアがノックされた。
姿を現したのは――黒服姿のSP君だった。
「……失礼します」
いつもの無表情だが、どこかぎこちない。
「うわっ、急に出てきた!」
隼人が椅子ごとひっくり返りそうになる。
「なんだよ、またトラブルか!?」
「違う。今日は、私事で……」
SP君は淡々としながらも、珍しく言い淀んだ。
「……これを」
差し出されたのは、一枚の封筒だった。
厚手の紙に金の縁取り。見慣れない、華やかな雰囲気。
「これって……招待状?」
いちかが目を丸くする。
「……はい。私の、結婚式の」
教室が一瞬で静まり返った。
「け、結婚式ぃ!?」
全員の声が揃う。
「ちょ、ちょっと待って! あんた、結婚するの!?」
美弥が思わず立ち上がる。
「……そういうことになった」
SP君はわずかに咳払いをして視線を逸らした。
「おおお……マジか。おめでとう、ってことでいいんだよな」
隼人がぽりぽり頭をかきながら笑う。
「もちろんだよ!」
はるなが目を輝かせる。
「すごい……結婚式って、本当にあるんだ……!」
「あるに決まってるだろ」
想太が苦笑すると、要も小さくうなずいた。
「社会人になれば、誰もが通る節目だ」
「で、俺たちを招待するってこと?」
隼人が尋ねると、SP君はこくりと頷いた。
「護衛任務で出会った仲間だから……ぜひ来てほしい。
正式な参列者として、席も用意してある」
「えぇぇぇ……参列!?」
全員が再びざわついた。
「ドレスとかタキシードとか着るのかな……」
はるなが顔を赤らめ、いちかは「え、わたし似合うかな」と真剣に悩み始める。
「うおお、タキシード!? 俺似合うかなあ!」
隼人は胸を張るが、美弥に即座に「似合うわけないでしょ」と切り捨てられる。
笑いと驚きが入り混じる教室。
けれど誰もが、心の底から祝福の気持ちを抱いていた。
「……ありがとう。じゃあ、当日を楽しみにしている」
SP君は一礼し、静かに教室を後にした。
扉が閉まった後も、しばらく全員は呆然としていた。
「……本当に結婚するんだな」
想太がつぶやき、はるなは夢見るように窓の外を見た。
――突然の招待状。
それは、6人にとって“大人の世界”への第一歩を告げる知らせだった。




