#062 「閉会式の言葉」
夕陽が校庭を赤く染める。
長い一日を走り抜けた生徒たちは、汗だくの顔に笑顔を浮かべて並んでいた。
砂埃の匂いと、どこか甘い焼きそばの残り香。
喧噪が落ち着き、名残惜しさだけが漂っている。
「これより、閉会式を行います!」
アナウンスが響き、校庭に整列の合図が広がった。
紅白の旗が再び掲げられ、応援団も列を正す。
「結果発表! 本年度の優勝は……赤組!」
その瞬間、地響きのような歓声が起こった。
「やったーっ!」
「赤組ばんざーい!」
隼人は大声で叫び、両手をぶんぶん振り回す。
美弥といちかも抱き合って飛び跳ね、要は小さく頷きながら口元をほころばせた。
「ほんとに勝っちゃったんだね……」
はるなが呟くと、想太は隣で笑った。
「できすぎだよな。でも、みんなで頑張ったからこそだ」
二人の笑顔に、また胸が熱くなる。
勝敗以上に、この時間が尊く感じられた。
壇上に立った校長は、静かに生徒たちを見渡した。
「今日は皆さん、本当にお疲れさまでした」
落ち着いた声が、夕暮れの空に吸い込まれていく。
「勝った者、負けた者、応援した者。
それぞれが役割を果たし、一日を作り上げました。
結果も大切ですが――こうして最後までやり遂げたことが、何よりの宝です」
その言葉に、誰もがしんと耳を澄ませた。
疲れているはずなのに、拍手が自然と広がっていく。
「来年も、皆さんの笑顔をここで見られることを楽しみにしています」
校長が深く頭を下げると、生徒たちも一斉に礼を返した。
続いて、生徒代表の挨拶。
呼ばれたのは要だった。
思わず特別クラスの仲間が顔を見合わせる。
「本日の体育祭、無事に終えられたのは、皆さん一人ひとりの協力があったからです」
要は真剣な表情で言葉を紡ぐ。
「勝敗は決まりましたが、それ以上に、笑顔と努力を分かち合えたことが大切だと思います」
静かな声が、不思議と校庭全体に響いた。
普段はクールな彼の言葉に、生徒たちから感嘆の声が漏れる。
「さすが要……」
いちかが小声で呟き、美弥も「かっこいいじゃん」と笑った。
「以上をもって、閉会式を終わります!」
大きな拍手が起こり、応援団が旗を振り、生徒たちは互いの肩を叩き合う。
砂埃が舞う校庭に、夕陽が最後の光を投げかけた。
「終わったなぁ!」
隼人が両手を広げ、爽快な声を上げる。
「なんか……寂しいね」
はるなが胸の奥で呟くと、想太が静かに笑った。
「でも、この一日はきっと忘れない」
六人の視線が自然に重なり、誰もが同じ気持ちを抱いていた。
勝敗を越えて、心に刻まれたのは――仲間と過ごした最高の時間。
夕陽の光の中で、その余韻をいつまでも噛みしめていた。




