#060 「借り物競争の奇跡」
午後のプログラム、次の種目は借り物競争だった。
「走者はカードを引き、そこに書かれた“借り物”を持ってゴールすること!」
アナウンスの声に、校庭がざわめく。
「面白そうだな!」
隼人はすでにやる気満々でスタートラインに立っている。
想太も番号で指名され、しぶしぶ出場することになった。
「がんばって!」
はるなは手を振り、観客席から声援を送った。
ピストルの合図で走者たちが飛び出す。
想太も一気にスタートし、机の上に並んだカードを掴んだ。
「えっと……“大切な人”……!?」
思わず声を詰まらせる。
観客席からどっと笑いと歓声が上がった。
「おいおい、ハードル高ぇな!」
隼人が横で爆笑しながら別のカードを確認している。
想太の頭にまず浮かんだのは――
「……はるな」
視線を上げると、観客席で彼女が不安げにこちらを見ている。
胸の鼓動が一気に早まった。
「想太くん、早く! 他の人たち進んでる!」
係員に急かされ、想太は決心する。
「……はるな!」
駆け寄って手を取ると、観客席から大きなどよめきが起こった。
「え、えぇぇ!?」
突然引っ張られたはるなは慌てて立ち上がる。
「ちょっと待って、私!? ほんとに!?」
「ごめん、でも……“大切な人”って書いてあったんだ!」
想太の真剣な声に、はるなの顔が一瞬で真っ赤に染まった。
周囲の生徒たちは爆発するように盛り上がる。
「やっぱりねー!」
「見て! 二人手を繋いでる!」
「青春かよ!」
「こ、これでゴール……!」
二人は手を繋いだままゴールテープを切った。
歓声と拍手が鳴りやまず、校庭全体が揺れるほどだった。
「……っはぁ、死ぬほど恥ずかしい」
想太は息を切らしながらも、どこか清々しい顔をしていた。
「わ、私だって……!」
はるなは口を尖らせながらも、心臓の鼓動が止まらない。
「いやぁ、最高だな!」
隼人が背後から豪快に笑い、要は小さく溜め息をついた。
「やはり、こうなる運命か……」
美弥といちかは観客席で大はしゃぎしていた。
「ねぇねぇ! もう完全に公開告白だよ!」
「はるな先輩、顔真っ赤だった!」
恥ずかしさで頭がくらくらする。
でも同時に――嬉しさで胸がいっぱいだった。
――借り物競争は、奇跡のような瞬間を二人に与えてくれたのだ。




