#006 「教室端末のともり」
朝の特別教室は、やけに静かだった。
廊下にも、人の影がほとんどない。
「……なんか、今日は妙に平和だな」
想太が椅子に座りながら周囲を見回す。
「ほんとね。廊下にファンクラブの声がしないなんて、奇跡だわ」
美弥がペンをくるくる回した。
「え、え!? ファンクラブなくなったの!?」
いちかが目を輝かせる。
「いや、それはないだろ」
隼人が肩をすくめる。
そのとき、廊下から無機質な声が響いた。
『生徒は立ち止まらないでください。繰り返します──立ち止まらないでください』
「……なにこれ」
はるなが眉をひそめる。
窓から覗くと、小型ドローンがゆらゆら漂っていた。
青いランプを点滅させ、生徒を追尾している。
「センサー付き……完全に監視だな」
要が分析する。
「えっ……これって、まさか」
いちかが息を呑む。
「サイコパスの警備ロボットじゃん!!」
想太が叫んだ。
「わっ、ほんとだ!ドミネーター出てきそう!」
いちかが大げさに身をすくめる。
「AI先生、本気出しすぎよ」
美弥は頭を押さえた。
教室の端末が点滅し、文字が浮かぶ。
《今日はSPさんたち、全員お休みだから》
「お休み?」
6人が同時に首を傾げる。
《昨日、飲み屋で暴れたでしょ。始末書タイムだよ》
「……ああ」
全員が納得の声を漏らす。
「始末書って……SPさんたち、大丈夫なの?」
はるなが心配そうに口にする。
《大丈夫。ただ、二十六人分の書類はかなりの山だと思う》
「……俺ら、守られるどころか逆に迷惑かけてる?」
想太がため息をついた。
「でも、なんか静かでいいね」
いちかは机に頬をつけて笑う。
「落ち着いて授業できるし、ノートも真っ白じゃなくなるかも」
はるなも小さく微笑んだ。
廊下の方から、再びアナウンス。
『立ち止まらないでください。記録されています』
「いや、SPいない方が平和ってどういうことだよ!」
想太が両手を広げる。
「統計的に、そういう結果になる」
要が冷静に告げる。
「うるさい!分析禁止!」
全員で一斉に叫んだ。
端末の画面に、一文が浮かぶ。
《……こうして見ると、やっぱり楽しそうだね》
6人は顔を見合わせ、ふっと笑った。
SP不在の一日。
その静けさは、妙に心地よかった。




