#059 「お弁当タイム」
午前中の競技が終わり、校庭に昼休みのアナウンスが流れた。
「選手は午後の競技に備えてしっかり休憩してください」
六人とSP君は、木陰を探して腰を下ろした。
敷物を広げると、それぞれ弁当箱や飲み物を取り出す。
「うわー、やっと座れた……」
美弥が大きく伸びをし、スカートの裾を押さえながら笑った。
「体育祭って、思った以上に体力使うな」
想太はペットボトルの水を飲み干し、額の汗をぬぐう。
「はい、タオル」
はるなが差し出すと、想太は照れくさそうに受け取った。
「……ありがとう」
隣同士に座った二人の間に、ぎこちない沈黙が落ちる。
「おっと、出たな! 青春の空気!」
隼人がニヤニヤしながら突っ込み、場の空気が一気に賑やかになった。
「わ、わたしたち普通に座ってるだけだから!」
はるなが慌てて声を上げると、美弥がすかさず追撃する。
「はいはい、“普通”ね~。でも、すごーくわかりやすいよ?」
「お前ら、茶化しすぎだ」
要が呆れ顔で割って入るが、口元はわずかに笑っている。
そんなやりとりをよそに、SP君が静かに黒い手提げ袋を開いた。
「……昼食をどうぞ」
中から現れたのは、見事に詰められた弁当箱だった。
色鮮やかな卵焼き、きれいに並んだおにぎり、煮物やサラダまでバランスよく揃っている。
「えっ……なにこれ、プロ?」
美弥が思わず声を上げる。
「僕が作った」
SP君は表情を変えず、淡々と答える。
「ちょ、ちょっと待って! 君、料理できるの!?」
隼人が驚いて声を裏返した。
「任務の一環として習得した。栄養管理も含めて完璧にこなす必要がある」
無表情でそう告げるが、その卵焼きはふんわりと黄金色で、誰が見てもおいしそうだった。
「うそ……めっちゃ美味しい……!」
試しに一口食べたいちかの頬が、一瞬でほころぶ。
「信じられない……外見とのギャップがすごすぎる」
「SP君、株上がりすぎじゃない?」
美弥が呟くと、観客席からもちらちらとこちらを覗く女子の姿があった。
「護衛の人って、あんなに料理上手なの!?」
「イケメンで料理もできるとか、ずるい!」
「いやいやいや、俺たちが主役のはずだろ!」
隼人が叫び、全員が笑いに包まれる。
はるなと想太も、つられて微笑んだ。
彼女が差し出したおにぎりを、想太が受け取る。
「……あったかいな」
「えっ……そ、そうかな」
二人のやり取りに、また周囲がニヤニヤする。
「やっぱり青春だなぁ」
隼人が伸びをしながらしみじみと呟くと、要が冷静に突っ込んだ。
「昼休みに一番注目を集めてるのは、どう見てもSP君だがな」
「……否定できない」
想太は苦笑し、はるなは小さく吹き出した。
――こうして昼休みのお弁当タイムは、和やかで少し賑やかな空気の中、あっという間に過ぎていったのだった。




