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#057 「リレーのバトン」

午後のプログラムも終盤に差し掛かり、校庭の空気はいっそう熱を帯びていた。

次に控えるのは体育祭の花形競技――クラス対抗リレー。

観客席からはすでに歓声と期待の声が飛び交っている。


「いよいよか……」

想太はジャージの袖をまくりながら深呼吸した。


「想太なら大丈夫だよ!」

隣で隼人が豪快に笑い、肩を叩く。

「バトン渡すのは任せろ。お前は全力で走れ!」


要は冷静にタイム表を確認し、作戦の最終確認をしている。

「最後の直線勝負になるはずだ。ペースを崩すなよ」


「……わかってる」

想太は真剣な眼差しで頷いた。


観覧席では、はるな、美弥、いちかが並んで声援を送る準備をしていた。

「想太、頑張って!」

「はるな、顔真っ赤だよ?」

美弥の茶化しに、はるなは慌てて頬を押さえた。


スタートの号砲が鳴り響く。

第一走者たちが一斉に駆け出し、砂煙が立ち上る。

歓声が校庭を揺らし、次々とバトンが繋がっていく。


「よし、来た!」

隼人が力強くバトンを受け取り、豪快なストライドで順位を押し上げた。

観客から「速い!」と驚きの声が飛ぶ。


「次、想太だ!」

要が声を張り上げる。


バトンが伸ばされる瞬間、想太の心臓は高鳴っていた。

「頼むぞ!」

隼人の叫びと同時に、しっかりとバトンを掴む。


次の瞬間、全身が風を切る。

足音だけが頭に響き、景色が流れる。


「想太ーーっ!」

観客席から飛んできた声に、胸が跳ねた。


はるなの声だった。

普段よりも大きく、真っ直ぐで。

名前を呼ばれただけで、力が湧き上がってくる。


「……負けられない!」

歯を食いしばり、加速する。


観客席では女子生徒たちがニヤニヤと笑い合っていた。

「ねえ、聞いた? はるなちゃん、想太って叫んだよ」

「もう公認カップルじゃない?」


はるなは顔を真っ赤にして両手で口を覆った。

「ち、違っ……今のは……!」

必死に否定するが、心臓の鼓動は隠せなかった。


トラックの最後の直線。

想太は全力で駆け抜け、次の走者へバトンを差し出す。

「頼んだ!」


歓声が爆発し、観客席は総立ちになった。


ゴールの瞬間、順位は二位。

けれど誰もが想太の走りを称賛し、声援を送っていた。


「おつかれ!」

隼人が背中を叩き、要も「よくやった」と微笑む。


想太は息を切らしながら、観客席を振り返った。

そこには赤い顔で立ち尽くすはるなの姿。

視線が重なり、二人は同時に小さく笑みをこぼした。


――リレーのバトンが繋いだのは、ただの勝敗ではなく、二人の心の距離だった。

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