#054 「学園祭の夜」
賑やかだった学園祭も、夕暮れとともに少しずつ静けさを取り戻していた。
教室には片付けの音だけが響いている。
紙飾りを外す音、机を運ぶ足音、そして時折交わされる小さな笑い声。
「いやぁ、今年は大成功だな!」
隼人が満足げに笑い、机を肩に担ぐ。
「食材ギリギリだったけど、最後まで乗り切れたな」
要も淡々としながら、どこか誇らしげに言った。
「ふぅ……」
美弥はメイド服のエプロンを外し、深く息をつく。
「人気出すぎて足がパンパン……でも楽しかった!」
そんな中、はるなは窓辺に立ち、外の景色を見つめていた。
校庭の向こうには、まだ残る提灯の明かりと、人々の残り香。
夜風が頬をなで、祭りの余韻を運んでくる。
――あっという間だった。
朝から緊張して、必死に笑って、戸惑って。
気づけば想太と一緒にいる時間ばかりが、心に強く残っている。
「はるな、こっち手伝ってくれる?」
振り返ると、想太が笑顔で声をかけてきた。
「あ、うん!」
彼の手元に駆け寄り、二人で机を運ぶ。
肩が触れただけで胸がどきりと鳴る。
それだけで、昼間の綿あめや花火の記憶が一気に蘇った。
――どうしてこんなに、意識してしまうんだろう。
机を運び終えると、想太はほっとしたように笑った。
「助かった、ありがとう」
その笑みを見た瞬間、胸の奥が熱くなる。
もう誤魔化せない。
私の心は、確かに彼に向いている。
「……なんだか、夢みたいだな」
ぽつりと想太が呟いた。
「みんなで頑張って、こんなに盛り上がって……」
その声に頷きながらも、私は心の中で別の言葉をつぶやいていた。
――私はもう止まれない。
この気持ちに気づいてしまった以上、後戻りはできない。
彼の隣にいることが、こんなにも嬉しいから。
窓の外に星が瞬き始める。
祭り囃子の名残が遠くに響き、静かな夜が訪れる。
私はそっと胸に手を当てた。
鼓動がまだ速い。
でもその速さは、恐怖ではなく希望の証だ。
――この夜の記憶を、ずっと忘れない。
そして、私の恋はもう始まっているのだから。




