#052 「舞台のステージ」
学園祭の喧騒が最高潮に達した午後。
校舎の中央ホールでは、恒例のステージイベントが始まっていた。
歌、ダンス、漫才に演劇――それぞれのクラスが趣向を凝らした出し物を披露し、観客席は熱気に包まれている。
「さあ次は……特別クラスからの飛び入り参加です!」
司会の声が響いた瞬間、想太とはるなは顔を見合わせた。
「えっ……僕たち!?」
「な、なんで……!」
答えは単純だった。
舞台袖でにやにや笑う隼人が、勝手にエントリーを済ませていたのだ。
「せっかくだから目立っとけ! いい思い出になるだろ!」
「無茶苦茶だよ!」
想太の抗議も虚しく、背中を押される。
気づけば二人は強引にステージ中央へ立たされていた。
客席からどっと歓声が上がる。
「キャー! 特別クラスだ!」
「はるなちゃんと想太くん! お似合いペア!」
強いライトに照らされ、視線が一斉に集まる。
はるなの手が小刻みに震えているのを見て、想太は思わず彼女の手を握った。
「だ、大丈夫……?」
「う、うん……でも、なにをすれば……」
そのとき、舞台袖から隼人の声が飛んできた。
「歌え! 二人で!」
「えぇぇぇ!?」
悲鳴に似た声が二人の口から同時に漏れた。
しかし観客は「歌だ!」「歌ってー!」と大盛り上がり。
逃げ道はどこにもなかった。
「……仕方ないな」
想太は観念し、マイクを手に取った。
はるなも半ばやけになり、隣に立つ。
音響担当が気を利かせて軽快な伴奏を流し始める。
リズムに乗りながら声を合わせると、不思議と緊張は薄れていった。
想太の真っ直ぐな声、はるなの澄んだ声。
二つの旋律が重なり、ホールを包む。
「……すごい」
観客のざわめきが驚きへと変わる。
拍手が広がり、やがて大きなリズムとなって場内を揺らした。
歌い終えると、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。
「ブラボー!」
「最高!」
二人は顔を見合わせ、自然に笑みをこぼす。
はるなの頬は赤く染まり、想太の胸も高鳴っていた。
「ほらな、やって良かっただろ!」
袖で隼人が親指を立てる。
要は呆れ顔で「全く……」とつぶやいたが、口元はかすかに笑っていた。
「アンコール! アンコール!」
観客が再び声を上げる。
「え、アンコール……!?」
慌てる二人に、隼人がステージ上へ飛び出してきた。
「じゃあ俺たちで漫才やろうぜ!」
「はぁぁ!?」
思わず声を揃える二人。
しかし、観客の爆笑と拍手が止むことはなかった。
即興の小ネタに引きずり込まれ、会場は終始笑いと熱気に包まれる。
――こうして、特別クラスの“舞台のステージ”は学園祭最大の見せ場となり、
はるなと想太の距離は、また一歩近づいていったのだった。




