#051 「SP君の大失敗」
午後の教室は、相変わらず大盛況だった。
客席は絶え間なく入れ替わり、廊下に並ぶ列は伸びる一方だ。
特別クラスのメイド喫茶は、学園祭の噂の中心にまでなっていた。
「次の注文、ショートケーキ三つと紅茶二つ!」
美弥の声が響き、厨房の机に伝票が積み上がる。
はるなと想太は笑顔で接客をこなしながら、心のどこかで充実感を覚えていた。
そんな中、ひときわ背の高い影が教室の隅に立っていた。
新人SP君――今日のために配置された“護衛”である。
サングラスに黒服という出で立ちは、どう見ても学園祭の空気にそぐわない。
「……あの人、何?」
「SPって噂あったけど、本当なんだ……」
一般生徒たちがざわめき、視線が彼に集中する。
SP君は慌てて姿勢を正し、目立たぬように壁際へ移動した。
だが、その動作が逆に不自然で、さらに注目を浴びてしまう。
「す、すまない……」
小声で呟きながらメニュー表を持つが、手が震えていて落としてしまった。
「わっ……!」
しゃがんで拾おうとした拍子に、サングラスがずり落ちる。
その素顔がちらりと見えた瞬間、女子生徒たちから歓声が上がった。
「か、かっこいい……!」
「ちょっと、モデルみたいじゃん!」
顔を真っ赤にしたSP君は慌ててサングラスを直そうとするが、手が空回りして床に転がしてしまう。
屈んだ拍子に肩が机にぶつかり、テーブルクロスがずるりと引き抜かれる。
「きゃーっ!?」
乗っていたグラスや皿がガタガタと音を立て、危うく落ちそうになる。
想太とはるなが慌てて支え、美弥と隼人もすぐさま片付けに回る。
「お、お騒がせして……!」
必死に頭を下げるSP君。
だが、教室内は悲鳴ではなく笑い声でいっぱいになっていた。
「今の見た? サングラス落ちただけであんな騒ぎに!」
「やばい、人気出そう!」
気づけば彼の周囲に女子生徒たちが群がり、携帯で写真を撮り始める。
「ちょっとポーズして!」
「笑って! 笑って!」
「ち、違う、俺は任務中で……!」
必死に否定する声は届かず、シャッター音が鳴り止まない。
「……なんであっちが人気になるのよ!」
はるなが思わず口走り、頬をふくらませる。
想太は苦笑しながら「まあ、目立つからな……」と肩をすくめた。
要はため息をつきながらも「……護衛任務は果たしてるから、まあいいか」と呟く。
隼人は腹を抱えて笑い、「お前、もうアイドルだな!」と背中を叩いた。
当のSP君は、顔を真っ赤にして固まっている。
その姿がまた女子生徒たちの心をつかみ、さらに盛り上がりを呼んでしまうのだった。
――こうして“特別クラスのメイド喫茶”は、思わぬスターを生み出すことになったのである。




