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#005 「SPさんの愚痴」

夜の街に、ひっそりと灯る赤提灯。

行政の力で貸し切られた居酒屋の一角は、黒服でぎっしり埋まっていた。

総勢二十六人。全員、今日一日で神経をすり減らしたSPたちだ。


「……もう無理ですって」

新人SPが、ジョッキを抱えながら呟いた。


「何が無理なんだ」

ベテランが渋い顔で聞き返す。


「だって今日、俺……プリントばら撒いたんですよ。しかも非公開資料」

新人は顔を覆った。


「ははっ、誰にでもあるさ。俺なんて初日に拳銃落としたからな」

「いやそれはヤバいでしょ」

一同が一斉にツッコむ。


「はるな様のファンクラブ、今日だけで三倍に増えてたぞ」

別のSPが苦い顔をする。


「三倍!? もう俺らの数じゃ足りないじゃないか!」

「だから胃薬が減るんだよ」

「こっちはもうストック切れだ」


渋い店内に、ため息混じりの笑い声が重なる。


「守るって、どういうことなんでしょうね」

新人がぽつりと呟く。


「命を張るってことだ」

ベテランが短く返す。

「……でも、あの子たちを見てると、ただ命張ればいいって気もしない」


一瞬だけ、静寂が落ちた。


だが、酒は確実に回っていく。

気がつけば、話題は愚痴から武勇伝に変わっていた。


「俺なんて昔は三十人押さえ込んだぞ!」

「俺はバイクで群衆の中突っ込んだ!」

「いやいやいや、嘘つけ!」


笑い声と乾杯が続く。

サングラスを外した新人が、酔いに顔を赤くしながら立ち上がった。


「俺は絶対守るんだぁぁぁ!」


その叫びに、一同「おおーっ!」と拍手。

次の瞬間、腕相撲大会が始まり、椅子がひっくり返る。

歌い出す者まで現れ、店内は完全にカオスになった。


ガラッ。

厨房から店主が現れた。


「お前ら!静かに飲めんのか!! うちの床、抜けるぞ!」


一斉に頭を下げる黒服二十六人。

だが五分後にはまた騒ぎ出すのだった。


──そして翌日。

全員に始末書が待っていることを、このときの誰も想像していなかった。

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