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#048 「恋のはじまりに」

学園祭当日の朝。

校舎は、いつもよりもずっと華やいでいた。


廊下には色とりどりの紙飾りがぶら下がり、あちこちから笑い声が響いてくる。

特別クラスの扉も、この日ばかりは大きく開け放たれていた。


「よし、飾りつけ完了!」

隼人が両手を広げて大げさに宣言する。


「お菓子の在庫、確認済みだ」

要は相変わらず冷静にメモを見ている。


「制服のチェックもオッケー!」

美弥がスカートを軽くつまみ、メイド服姿をひらりと回して見せた。


「……本当にやるんだね、これ」

僕は半ば呆れながらメニュー表を手に取った。


「せっかくだから全力でやるの!」

美弥が胸を張る。

「そうだそうだ!」隼人が妙に楽しそうに乗っかる。


僕は思わず苦笑して、隣に視線を移した。


はるなはエプロンのリボンを結び直していた。

指先がほんの少し震えているのを見て、胸がどきりとする。


「……似合ってるな」

口から出た言葉に、自分で驚いた。


「えっ」

はるなが顔を上げる。


「いや、その……本当に似合ってると思ったから」


一瞬の沈黙。

次の瞬間、彼女の頬が一気に真っ赤に染まった。


「な、なによ……! べつに、普通でしょ」

強がる声が少し上ずっている。


僕は慌てて視線を逸らし、手元のメニュー表に目を落とした。


廊下の向こうから、人のざわめきが近づいてくる。

「そろそろ開場だって!」

「特別クラス、初めて入れるんだよね!」


楽しげな声と足音が、少しずつこちらへ迫ってきた。


「……来るな」

僕は小さく息を呑む。


はるなも同じように、唇をかみしめていた。


胸の奥がざわざわと落ち着かない。

こんな感覚、これまでになかった。


――私は気づいてしまった。


昨日までただの同級生だったはずの人。

一緒にいると楽しくて、でもどこか不安で。

名前を呼ばれるだけで、心臓が痛いくらいに鳴る。


その理由に。

その正体に。


私はもう、ごまかせない。


だって、これは――


恋のはじまりなんだ。

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