#047 「準備の夜」
学園祭前日。
放課後の教室には、まだ作業の音が響いていた。
「よし、この飾りはここでいいかな」
僕は机を動かし、カーテンに貼った紙花を整える。
「……うん、いいんじゃない」
はるなが短く答える。
視線をやれば、彼女は画用紙を切り抜きながら、そっと僕を盗み見ていた。
僕は気づかないふりで、作業に集中する。
「あとメニュー表だな。えっと、紅茶と……」
「コーヒーとケーキも追加ね」
「わかった」
言葉は必要最低限。
だけど、不思議と息はぴったり合っていた。
時計の針が進み、窓の外はオレンジ色に染まっていく。
気がつけば、教室に残っているのは僕たち二人だけだった。
「……あれ、他のみんなは?」
僕は手を止め、周囲を見回す。
「とっくに帰ったわよ。気づかなかったの?」
はるなが少し笑う。
「え、そうなのか……」
僕は遅れて胸がどきりとする。
二人きり。
夕陽の光が差し込む静かな教室で。
「……」
急に落ち着かなくなり、手にしていたペンを机に置いた。
「な、なんか……妙に静かだな」
「ふふっ」
はるなが小さく笑った。
「ずっと二人で準備してたのに、今ごろ気づくんだ?」
「う……」
言い返せず、僕は視線を逸らした。
その横顔を見ながら、はるなの胸は高鳴り続ける。
――まるで、恋人ごっこみたい。
夕暮れの教室に沈黙が落ちる。
窓の外で風がカーテンを揺らし、影が二人を包んだ。
僕は何か言おうと口を開きかけたが、その瞬間――
はるなが先に声を出した。
「……ねえ、明日、楽しみだね」
その笑顔は夕陽に照らされて、僕の心臓を一層ざわつかせた。




