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#045 「友達からの視線」

翌日の昼休み。

購買で買った焼きそばパンと牛乳を抱えて教室へ戻ろうとした僕は、廊下に漂う妙な空気に足を止めた。


「ねえねえ、聞いた? 昨日の夜のこと」

「聞いた聞いた! 電話でしょ? はるなちゃんと!」

「しかもその前に相合い傘だって!」


ざわざわと、女子たちの声が耳に飛び込んでくる。

笑い声とため息が交じり合い、やけに華やいで聞こえた。


「えっ……?」

思わず立ち止まり、袋を握りしめる手に力が入る。


視線を感じて顔を上げると、数人の女子がこちらをちらりと見て、すぐに顔を寄せ合い、またひそひそと囁き合った。


「二人で傘に入って、夜は電話……」

「これ、もう決まりってことじゃない?」

「きゃー、青春だねぇ!」


……なんで知ってるんだ。

あの電話、部屋でこっそりだったのに。

いや、きっとファンクラブ経由で、どこかから漏れたんだろう。


僕は苦い気分で教室に入り、自分の席へと戻った。

机にパンを置きながら、ぽつりと呟く。


「なんか……僕、悪いことしたかな」


「悪いことって?」

隣の席から、はるなが小首を傾げる。


「いや、その……みんな妙に騒いでるし」

僕は視線を逸らし、机の上のパン袋をいじりながら続けた。

「僕、そんなつもりじゃなかったんだけど」


一瞬。

はるなの表情が固まる。


けれどすぐに、彼女はそっぽを向き、耳まで真っ赤に染めた。

「……人たらし」


小さく吐き出すような声。

僕は聞き返す。


「え?」

「な、なんでもないっ!」


はるなは慌てて焼きそばパンをかじるふりをし、机に視線を落とした。

その仕草が余計に不自然で、僕はどうしていいか分からず、牛乳のストローを噛んでごまかした。


机の前。

通り過ぎていく女子たちが、わざとらしく声を上げる。


「いいなぁ〜! ああいうの、青春って感じ」

「ほんと。ちょっと羨ましいよね」

「でも、はるなちゃんファンクラブどうするのかな〜?」


ひそひそ声と笑いが、まるで波のように押し寄せては遠ざかっていく。


――どうしてこう、勝手に盛り上がるんだろう。


僕は心の中でため息をついた。

でも同時に、頬を赤く染めたまま黙り込んでいるはるなの横顔を見て、胸の奥がまた熱くなるのを感じてしまった。


言葉にはできない。

でも、確かに何かが少しずつ変わっていってる。

そのことだけは、僕自身も否定できなかった。

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