#040 「隼人と美弥の視点」
放課後の校舎裏。
隼人と美弥は並んで自販機の前に立っていた。
「ふぅ……今日も騒がしかったな」
隼人は缶コーヒーを片手に、ぐいっと一口飲む。
「騒がしい、ね」
美弥は小さく笑い、ペットボトルのお茶を開けた。
「でも、ほとんど“あの二人”が原因でしょ」
「ああ。想太とはるな、な」
隼人は当然のように言い切る。
美弥は少しだけ目を細めた。
「……前から仲は良かったけど、最近は雰囲気が違うわ」
「違うっていうか……もう、バレバレだよな」
隼人が苦笑する。
「図書館事件に、いちかの爆弾発言。隠しようがないだろ」
「ま、本人たちは必死に否定してるけど」
美弥は軽く肩をすくめる。
「――ああいうの、青春って言うのかしらね」
隼人は缶を傾け、少し間を置いてから言った。
「お前、ちょっと複雑そうだな」
「……さあ、どうかしら」
美弥は視線をそらし、遠くの夕焼けを見上げた。
「応援したい気持ちもあるし、羨ましい気持ちもある。
でも……一番大事なのは、はるなが笑ってること、でしょ」
その言葉には、ほんのり熱が混じっていた。
隼人は黙って笑う。
「ま、俺も似たようなもんだ」
「え?」
美弥が振り返る。
「要といちかを見てるとさ、こっちが照れるくらい自然だろ」
隼人はあっけらかんと言った。
「想太とはるなも、ああなるのは時間の問題だよ」
「……そうね」
美弥は小さく息を吐き、笑みを浮かべた。
二人はしばらく黙ったまま夕焼けを眺めていた。
校舎の影が伸び、オレンジ色の光が世界を包んでいく。
「青春だな」
隼人がぽつりと呟いた。
「……本当にね」
美弥も同じように呟いた。




