#004 「SPさん現る」
廊下の混乱はさらに増していた。
「はるな様ー!」「美弥先輩ー!」と叫ぶ声が、もはや体育祭並みのボリュームで響き渡る。
人の波が押し寄せ、窓ガラスがきしむほどだった。
その渦中に、黒服がひとり、慌てたように駆け込んできた。
新人SPだ。
サングラスを押さえながら叫ぶ。
「皆さん!押さないでください!通行止めです!えっと……止まって!いや、進んで!ちょ、違う!」
指示がぐちゃぐちゃだ。
群衆の方が一瞬止まり、次の瞬間には笑い声が起こる。
「え、なにあの人、新人?」「可愛い〜!」
女子生徒の声まで飛んできた。
「……守るどころか人気者になってない?」
想太が呆れ顔で呟く。
「新人って、こういうものなのよ」
美弥が小声でため息をついた。
「がんばれ新人くん!」
いちかまで両手を振って応援し、さらに盛り上がってしまう。
「いや応援するなよ!」
隼人がすかさずツッコむ。
新人SPは必死に腕を広げ、6人の前に立った。
だが、その足元で──
バサッ。
書類の束が床に散らばった。
誰かの提出プリントまで混じっている。
「わぁぁっ!? 俺の!いや、これは……え、違う、なんでプリントまで!?」
新人SPは慌ててかき集めるが、プリントの一枚が群衆にひらひらと舞っていった。
「……“特別教室警備マニュアル(試作)”って書いてあるんだけど」
要が拾い上げて、無表情で読み上げる。
「えぇぇっ!?返してください!それ、非公開資料なんで!」
新人SPは顔を真っ赤にして飛び跳ねた。
「ドジっ子属性、確定だね」
隼人が肩を揺らして笑う。
「でも……必死で守ろうとしてるのは、伝わるよ」
はるなが小さく呟くと、群衆の声が一瞬だけ静まった。
新人SPはサングラスをかけ直し、胸を張って言った。
「……俺は絶対に守ります!だから、みんな下がってください!」
その真剣な声に、ほんの少しだけ空気が変わる。
数人が下がりかけたその時。
「新人くんかっこいいー!」
「キャー!がんばれー!」
女子たちの黄色い声援で、空気はあっという間に逆戻りした。
男子たちは「なんで女子があいつ応援してんだよ!」とざわめき、場はさらにカオスに。
「……守られるどころか、むしろスターになってる気がする」
想太が頭を抱える。
「統計的に言えば、人気は拡散している」
要がまた冷静に分析する。
「いらない分析!」
6人全員から突っ込みが入った。
新人SPは顔を真っ赤にしながら、書類を抱え直す。
その姿に、群衆から「がんばれコール」が自然発生。
「……やっぱり、二年目も騒がしいな」
隼人が苦笑する。
6人は顔を見合わせ、同時にため息をついた。




