#037 「昼休みの屋上」
昼休み。
六人は屋上に集まっていた。
春風が吹き抜け、青空の下でシートを広げる。
それぞれのお弁当箱が開かれ、わいわいとした空気が広がった。
「やっぱり外で食べるの最高だね!」
いちかが大きく伸びをしながら笑う。
「統計的に、屋上ランチは満足度が高い」
要が唐突にノートを開きながら言い、全員が苦笑する。
「お前、どこにでも数字持ち込むなよ」
隼人が呆れたようにツッコミを入れた。
僕は弁当をつつきながら、ふと横を見る。
隣に座るはるなは、ほんの少しぎこちない笑顔を浮かべていた。
「はるなお姉ちゃん、顔赤いよ?」
いちかが無邪気に言う。
「えっ……ち、違うわよ!」
はるなが慌てて首を振る。
「なになに〜? 恋バナ?」
いちかの一言で、場の空気が一気に弾けた。
「お、いいね。青春って感じだな」
隼人が面白がって笑う。
「……想太と、なにかあった?」
美弥が何気なく口にする。
その目は冗談めかしつつも、じっとはるなを観察していた。
「なっ……! な、なんでもないから!」
はるなは慌てて弁当箱を閉じそうになる。
「統計的に、赤面は好意の兆候」
要の追い打ちが入る。
「やめてぇぇぇ!」
はるなは両手で顔を覆った。
「……おい、僕は何もしてないからな!」
僕は慌てて手を振った。
「そういうとこが鈍感なんだよ、想太」
隼人がニヤリと笑う。
「え、えぇ……?」
僕は頭を抱えた。
「はるなお姉ちゃん、素直になっちゃえば?」
いちかがにこにこしながら追撃する。
「そ、そんな簡単に言わないでよ!」
はるなは顔を真っ赤にし、ついに立ち上がってしまった。
「おーい、弁当置いてどこ行くんだ」
隼人が声をかけるが、はるなは耳まで赤くしてうつむいたまま。
「……ほんと、からかうのやめなさいよ」
小さく呟いた声に、全員が思わず静かになる。
風が吹き抜け、沈黙のあとに笑いが広がった。
結局、みんなで弁当を食べ終える頃には、空気はいつもの調子に戻っていた。
だが――
隣に座るはるなの横顔は、最後までほんのり赤いままだった。




