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#034 「新学期スタート」

新学期の朝。春の光が久遠野学園の校舎を照らしていた。

桜の花びらはすでに散り始めていたが、校門をくぐる生徒たちの足取りは軽やかだった。


……もっとも、その中心にいる僕たち六人の足取りは、必ずしも軽いわけじゃない。


「おはよう、想太!」

元気いっぱいの声が横から飛んでくる。

はるなが笑顔で手を振り、僕も思わず同じように返す。


その瞬間――

「キャーーー!」

背後から小さな悲鳴が響き、空気がざわついた。


やれやれ、またか。

ファンクラブ大戦争は終わったはずなのに、結局“熱”は消えていない。

ただ、以前のように暴走することはなく、列を作って礼儀正しく声をかけてくるようになった。


「はるな様ー!」

「想太くーん!」

「お姉様、今日も素敵です!」


――整列してるのに叫ぶなよ。

僕は内心突っ込みながらも、無視することはできず曖昧に手を振る。


「……なんか、まだ落ち着かないね」

隼人が僕の横で肩をすくめた。


「統計的に、群衆心理は残存する」

要が真面目な顔で言う。


「残存って……」

僕は苦笑する。


美弥はそんな僕たちを横目に見ながら、ため息を吐いた。

「もう慣れるしかないんじゃない?」


「でも、はるなちゃんが一緒なら平気だよ!」

いちかは明るく笑い、はるなの腕にぴったりくっついた。


「ちょ、ちょっと……」

はるなは顔を赤くしながらも、振り払おうとはしなかった。


教室に入ると、そこでも視線が一斉に集まる。

黒服のSPたちが廊下の端に立ち、生徒たちはきちんと距離を保っている。


「すげーな……完全に“特別クラス”だな」

「前より近づきやすいけど、逆に緊張するよな」


クラスメイトのひそひそ声が耳に届く。

ファンクラブは依然存在している。秩序ができただけで、熱は冷めていない。


「……こうしてみると、ほんとに特別扱いだな」

僕は席につきながら小声でつぶやいた。


「そりゃ、君たちは全国放送されたんだもん」

美弥がさらりと言う。

「注目されて当然でしょ」


「でも、私たちが笑っていれば、それでいいんじゃない?」

はるなが前を向いたまま答える。


――ほんと、前向きだよな。

僕は彼女の横顔を見ながら、思わず苦笑した。


昼休み、六人は屋上に集まった。

春風が吹き抜け、青空が広がる。

弁当を広げながら、くだらない話で盛り上がる。


「そういえば、想太くん」

隼人がふと切り出した。

「平和が続くといいな、とか思ってるんじゃないの?」


「……まあ、そうだな」

僕は肩をすくめる。


でも――

本当にそう思っているかどうかは、自分でもよくわからない。

大戦争は終わった。けれど、新しいざわめきがまた始まろうとしている気がする。


「平和が続くといいな」

そう口にした瞬間、全員の顔が一斉に苦笑に変わった。


――皮肉だ。

僕の言葉がフラグみたいに響いて、春の空に溶けていく。

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