#002 「ざわつく廊下」
教室のざわめきは、さらに外へと広がっていた。
廊下の方から、どんどん人の足音が近づいてくる。
最初は数人だったはずなのに、気がつけば群れのようなざわめきになっていた。
「……なんか増えてないか?」
想太が窓際に目をやる。
「『はるな様が……』『美弥先輩が……』『いちかちゃんかわいい!』」
声が重なり、波のように押し寄せる。
「まるで見世物ね」
美弥がため息をつく。
「いや、これはもう……ライブ会場だな」
隼人が半ば呆れた調子で言った。
「お客さん、多すぎっ!」
いちかは机の下に隠れかけて、すぐ諦めた。
そのとき、天井のスピーカーから機械的な声が響いた。
『皆さん、授業が始まります。ご自分の教室に戻ってください──』
AI先生の冷静なアナウンス。
しかし誰も動かない。むしろ拍手が起こった。
「……なんで拍手なんだよ!」
想太が机を叩く。
『繰り返します。授業が始まります。ご自分の教室に──』
放送が二度、三度と重ねられる。
そのたびに歓声が上がるのだから、もはや逆効果だった。
「AI先生、煽ってどうするのよ」
美弥が呆れ顔でつぶやく。
「冷静に。冷静に……」
はるなは自分に言い聞かせるように小声で唱えている。
廊下ではさらに混乱が広がり、ついにSPが駆け込んできた。
黒服の新人SP。顔は真剣だが、手にはなぜか書類がはみ出したまま。
「ちょっ、皆さん!進んでください!ここは通行止め──いや、止まって!止まらないで!」
言葉が前後している。
「おい、完全にパニックだぞ」
隼人が呟く。
「分析すると……統率が取れてない」
要は冷静に観察し、メモを取っている。
「わ、わっ、誰か押すなぁぁぁ!」
SPの声が廊下のどこかで裏返った。
「……えっと、これ授業始まるのかな?」
いちかが机に頬をつけて呟く。
「始まるわけないだろ……」
想太が即座に突っ込んだ。
ともりの端末が光り、画面に文字が浮かぶ。
《冷静になろう。これは授業じゃなくて、ほぼイベントだ》
「……そうだね」
6人は同時にため息をついた。




