#019 「いちか天使連合」
昼休みの廊下。
今日も特別教室の前には人だかりができていた。
「癒しこそ正義ーーー!!!」
野太い声が一斉に響く。
横断幕には《いちか天使連合》の大文字。
ハートマークや天使の羽が描かれていた。
「いちかちゃん大好き!」
「天使の笑顔をもう一度!」
「えへへ……ありがとう!」
いちかは照れくさそうに手を振った。
その瞬間、廊下の空気が爆発した。
「うおおおおおお!!!」
「尊い! 今の一言で救われた!」
「……いや、なにこれ」
想太はあ然とした。
「完全にアイドルの現場ね」
美弥は腕を組んで呆れた。
「俺たち、毎日ライブしてるみたいだな」
隼人が苦笑する。
「統計的に、癒しの需要は常に高い」
要は冷静に分析する。
「もう~、そんな大げさだよ」
いちかは両手を振って否定した。
「否定すら可愛い!」
「天使の謙虚さ!」
「ちょっと! いちかに群がらないで!」
はるなが慌てて声を上げる。
「はるな様の嫉妬!尊い!」
はるな派までも騒ぎ始めた。
「……勝手に解釈するな!」
はるなは顔を真っ赤にする。
「天使連合は平和を望む!」
「争わないで、笑顔で繋がろう!」
「……スローガンまでできてる」
想太が頭を抱えた。
「これはもう立派な組織よね」
美弥がため息をつく。
「……俺、ここにいる意味ある?」
想太は力なく呟いた。
「あるよ!」
いちかが笑顔で答えた。
「それが一番きついんだよ!」
想太は机に突っ伏した。
「愛の力って、ほんとにすごいっすね……」
新人SPが壁際で肩を落とした。
教室の中は爆笑に包まれた。




