#016 「開戦の火ぶた」
昼休みの廊下。
特別教室の前に、人だかりができていた。
「はるな様こそ、この学校一の美少女だ!」
男子たちが声を揃える。
「想太くん最高ーーー!!」
女子たちが負けじと叫ぶ。
「……始まったな」
隼人が教室の窓から外を見やった。
「統計的に言えば、衝突の確率は百パーセントだ」
要が淡々と分析する。
「百パーって……」
想太は額を押さえた。
「はるな様は女神だ!」
「想太くんは天使!」
廊下に響く応援歌合戦。
太鼓こそないが、声量は体育祭レベルだった。
「ちょっと……恥ずかしいからやめてってば!」
はるなが教室の中から声を上げる。
「きゃーーー! 照れ顔尊いっ!」
男子ファンが床に崩れ落ちた。
「想太くーん!二番目でもいいから!」
女子の叫びに、想太が硬直する。
「……二番って何の話だよ!?」
素直なツッコミに、女子たちは感涙した。
「尊い……!天然だ……!」
廊下の熱狂は止まらない。
「これは……想定外っす!」
新人SPが頭を抱える。
「集会は禁止されています」
AI先生の無機質なアナウンスが流れた。
だが、誰も耳を貸さない。
「はるな様派に勝つぞー!」
「想太派を潰すなー!」
まるで運動部の応援合戦のような熱気。
「これ、完全に戦争だな」
隼人が苦笑する。
「戦争……」
美弥は頬に手を当て、呆れた表情を浮かべた。
「なんか楽しそう!」
いちかが目を輝かせた。
「いやいやいやいや!!!」
教室の全員が総ツッコミした。
廊下の騒音は、まだまだ収まる気配がなかった。




