#011 「想太の苦労」
昼休みの庭。
春の風に枝が揺れ、木陰に心地よい影を落としていた。
想太はそこに腰を下ろし、弁当箱を開いた。
「……やっと静かに食べられる」
ため息と共に、おにぎりを手に取る。
しかし、その瞬間。
「想太くーん!」
女子の声が響き渡った。
「えっ、俺?」
想太は固まる。
数人の女子生徒が駆け寄ってきた。
「お弁当一緒に食べよ!」
「おかず交換しよう!」
「いやいやいや! 俺はおにぎりで十分だから!」
想太は必死に手を振った。
「二番目でもいいから!」
ひとりの女子が叫ぶ。
「……二番って何の話!?」
想太が素で返すと、女子たちは感涙して崩れ落ちた。
「尊い……」「天然すぎる……」
そこへ男子たちが現れた。
「裏切り者ーーー!」
「隣の席だけじゃ足りないのか!」
「いやだから俺は弁当食ってるだけだって!」
想太は声を裏返す。
「想太くん、こっち見て!」
「写真撮っていい!?」
女子ファンがスマホを構え、さらに混乱は拡大した。
「やめろ! 肖像権とかあるだろ!」
想太は頭を抱えた。
そのとき──
「想太ーーー!」
教室の窓が勢いよく開いた。
「アンタ、何やってるのよっ!!!」
はるなの声が庭に響き渡る。
「キャーーーー!!!」
女子ファンたちは一斉に悲鳴を上げた。
「はるな様のヤキモチ……!」
「尊すぎる……」
「ち、違うってば!」
はるなは顔を真っ赤にして手を振った。
「でもあの赤面……最高……!」
男子も女子も、勝手に感涙。
「……もう帰りたい」
想太はおにぎりを握りしめたまま、膝を抱えた。
「マジでもう守りきれないっす!」
新人SPが庭の隅で叫ぶ。
「……俺が一番守られたいわ」
想太のぼやきが、庭に虚しく響いた。




