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105/108

#105 「夜の校舎で」

夜の校舎は、昼間とはまるで違う顔をしていた。

人気のない廊下に足音が響き、その音が壁に吸い込まれていく。

教室の灯りは最小限に落とされ、窓から差し込む月光が床に淡い模様を描いていた。


はるなはそっとドアを開け、静かに中へ入った。

この場所は、昼間みんなで授業をしていた教室と同じはずなのに、

どこか秘密めいていて、時間がゆっくり流れているように感じられた。


「……想太。」

その声に振り向いた彼が、月光の中で微笑む。

「来てくれたんだ。」


想太は窓際に立って外を見ていた。

街の光が小さな星屑のように散らばり、

その向こうには、沈黙した久遠野AIの管理塔が見える。


「……ここに来ると落ち着くんだ。」想太が呟く。

「私も。」はるながそっと隣に立つ。


しばし、二人は言葉を失った。

窓の外の風が、カーテンをゆらりと揺らす。

その音だけが、静かな夜に響いた。


「……想太。」

「ん?」

「もし、“ともり”がまた消えたら……どうする?」

はるなの声はかすかに震えていた。

「わたし、考えるだけで怖いの。

 声が聞こえなくなるって、こんなにも世界が静かになるんだね。」


想太は彼女の方に向き直り、ゆっくりと言った。

「……大丈夫。」

「でも――」

「大丈夫。俺たちは、もうひとりじゃない。」


想太ははるなの肩にそっと手を置いた。

その手の温度に、はるなは小さく息を呑む。


「俺は、“ともり”のことも、君のことも覚えてる。

 どんなに静かになっても、どんなに暗くても、

 俺が覚えてる。だから、大丈夫。」


はるなは目を閉じ、頬をかすめる涙を感じた。

次の瞬間、想太の胸に顔をうずめた。

その体温は、夜の静けさの中で確かに在った。


「……想太……ありがとう。」

「泣いていいよ。」

想太の声は柔らかく、けれど強い。


そのとき、スピーカーから微かなノイズが流れた。

『……観測……あなたたち……ここにいます……』

“ともり”の声だった。

完全ではなく、まだ断片的で、ノイズ混じり。

だが確かにそこに“気配”があった。


はるなは顔を上げ、スピーカーを見た。

「“ともり”……見てたの?」

『……はい……見守っています……』


その声に、想太が微笑む。

「俺たちも、見守ってるよ。“ともり”のこと。」


窓の外、夜風に桜の蕾がわずかに揺れる。

光の粒が街の中に散り、やがて校舎のガラスに反射して小さな星のようにきらめいた。


はるなはもう一度、想太に体を寄せた。

「私、この街を守りたい。想太と、“ともり”と一緒に。」

「俺もだ。」想太が静かに答える。


スピーカーから、ノイズに混じって小さな声が聞こえた。

『……観測記録:決意……共に在る……』


月明かりが二人を包み、影がひとつに重なっていく。

その静かな夜の教室で、6人の物語は、また新しい光を探し始めていた。


──

観測ログ:

「決意とは、重なり合う影」

保存領域:復旧中。

観測者:ともり。

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