8.
「あぁーもうやってられねぇぜ!そろそろ我慢の限界だ!」
「この国は俺たちが働いて産まれた物で出来てるんだぜ?なんでそれをほとんど持っていかれて王族や貴族が贅沢して暮らしているんだ?」
「俺らがいなかったらこの国は成り立たない!この国に必要なのは王族じゃなく俺らだ!」
「そうだそうだ!毎日毎日、本当に馬鹿げてる!」
「あ、もうコーヒーねぇじゃねぇか、お嬢ちゃん!コーヒーおかわり!」
2階は品なんてものはない大声と共に物騒な話が聞こうとしなくても耳に入ってくる。
「はーい!少しお待ちになって。」
(はぁ〜なんで私が…。)
心とは裏腹に頬を吊り上げせかせかと店内を動き回る。
コレットは最近、2階の給仕をすることも多くなったが、これはお店が繁盛しているという理由だけではない。
「大繁盛だな〜。俺も手伝おうか?」
「あら、フレッドいたの?気がつかなかったわ。」
「相変わらずつれないな。でもそんなところも嫌いじゃないな。」
青い瞳の彼はブロンズの髪をちょこんと後ろで束ね、肘の上までシャツを捲り上げた腕をテーブルにつき長い足を組みながら優雅にコーヒーを飲んでいた。
「お前こんだけ相手にされなくても来るんだな。俺はむしろ尊敬するぞ。コレット、デートくらいしてやったらどうだ?」
「…や、やめてよ。ありえないわ。」
彼はあれから週に1度は必ずこの店を訪れるようになり、コレットはそれをきっかけに2階にも上がるようになった。
(いや…か、彼魔法が効かないから盗み聞きもできないのよ。いや…別に何を話すのか気になってる訳じゃないわ。聞こえないから気になるだけよ。ただそれだけ。別に彼が来るのを心待ちになんて…。)
「コレット…今度の休み、俺とデートに行かないか?」
(あぁ、この笑顔が消えた瞬間のギャップがまた素敵なのよね…。)
「って違う!だ、だから行かないってば!」
「今日もダメか…。そろそろOKしてくれてもいいんじゃないか?」
「い、いやよ。」
「これからは俺らの時代だ!王族なんていらない!!!」
ヒートアップした男性達が皆でそう声を上げる。
「ッ!…もううるさいわね。」
「そうだそうだー!この国の真の王は民だ!」
そしてフレッドはそれに乗っかりなぜか男達を焚きつける。
「ちょっとフレッド!…貴方貴族でしょ?国が崩壊すれば今の富も名誉もなくなるのよ?」
誰の耳にも入ってはいないだろうが、彼に近づき小さい声でそう話す。
「こんな国の名誉なんていらないね。君と一緒にいられないなら全て捨てたっていい。」
「ッ………そ、そんな簡単な話じゃないでしょ?」
彼の視線にドキッとするが、コレットは自身の高鳴る鼓動の赴くままにはいかれない。
この国では貴族の婚姻は基本親が決めることになっている。家柄とお金で判断され、本人の希望なんてものは存在しない。それが当たり前なのだ。
それにコレットは、決して大手を振って歩ける存在ではない。
「大事なのは想い合うことだ。それ以外は関係ない。君はどうなんだい?俺の気持ちはいつも君に伝えてる…。」
「…………。」
コレットの中でよく分からない気持ちがノドまで迫り上がってくるが、言ってはいけないような気がしてキュッとノドが締まる。
「もし本当に…君にとって迷惑なら…」
「そうね…(毎日彼に振り回されてばかりで…)とっても…迷惑だわ………ッ!」
ノドから絞り出した言葉に彼の瞳が悲しそうに揺れ始め、綺麗なブルーシエルの瞳はまるで深い海のように暗くなっていく。
「この国は俺らのものだー!」
「わっ…ッ!」
興奮した人々が中央のテーブルに押し寄せ、それらから庇うようにフレッドはコレットの肩を抱き自身の胸へと引き寄せる。
「おいお前ら!ここはこのレディーの店だ。暴れるなら外でやれ!出禁になるぞ?」
「す、すまない。お嬢ちゃん大丈夫か?」
「………あ、ええ。そうですね。私、皆様方のような逞しい男性が粛々と熱く語る姿が…とても素敵だといつも思っておりますの。」
コレットはハッと熱くなった顔を振り彼の胸から脱出し、すぐに憂いを帯びた眼差しを下げながらか弱くつぶやいた。
「あぁ…これはすまない!そうだな。皆ちょっと落ち着こう。」
「ありがとうございます。よろしければ皆さんにコーヒーを一杯サービスしますわ。どうか"ごゆるりと"コーヒーとこの場をお楽しみください。」
とその場を収めたコレットはコーヒーの準備にと後ろを振り返った。
「あ、その…さっきはありがとう。」
「いや、別に俺は何も?」
といつものように軽い笑みを浮かべる彼の横を、コレットはそのまま通り過ぎた。
そして…。
「はあぁ〜…。」
彼はそれから、店にも森にも来ることはなかった。




