3.
「はぁ〜…。夫の荷物にまた"ネズミ"が紛れ込んでしまったみたいで…。」
「あら、それは増える前に駆除しないと…。」
「お庭で"犬"を飼ったらいかが?」
「それもいいわね。」
「私この前"トゥトゥ"とブランコで遊びましたの。なかなか面白かったですわよ?」
「あら、そう。」
(おぉ、こっちもいろいろとくり広げられてるわね。)
と今度は女性陣の話に耳を傾ける。
男性が愛人を猫とするなら、女性の愛人は犬。男性と少し違うところは女性達は愛称で呼び合い少しだけその存在をぼかす。まあ言っていることは変わらないが…。
「従順な"トゥトゥ"って素敵ですわよね。」
とコレットは扇子を広げ静かに近づいていく。
「あら、貴方も探しにいらしたの?」
「ええ…。でも今宵はあまり良いのがおりませんの。」
「ほんとよね…。」
と皆ため息を扇子で散らしながら目をぐるりとさせる。
(苦しいコルセットや重い頭に耐えてやって来たのに、なんの成果もないんじゃ嫌にもなるわよね。)
と冷ややかな目を送りつつも少しだけ同情してしまう。
「お姉様方?もっともっと…自分を美しく輝かせてみたくはありません?そうすれば"トゥトゥ"も思いのままですわ。」
と片方だけ頬を持ち上げ扇子をゆっくりと動かす。
「あら、それはどういうこと?」
「よろしければ、こちらにお越しくださいまし。」
と瞳を光らせる貴婦人達にも黒いカードを忍ばせ香りを届ける。
「…あら、何の話をしていたのかしら。」
「ブランコの話ではなくて?」
「あぁ、そうね。私もお庭に作ってみようかしら。」
「ふふ…。今宵はこんなものかしら?」
とだらしなく緩まないよう口元にグッと力を入れコレットは出口へと歩き出す。
(……………あら?)
ふと顔を向けた先に佇むひとりの男性に、なぜか目線は奪われる。
その男性は、控えめな金の刺繍が施されたブルーシエルのジェストコートを纏い窓際に寄りかかりながら外を眺めていた。
仮面で誰かはわからないが、その上質な出で立ちに一定以上の位であることは容易に理解できる。
(せっかくここまで来たんだから、もうひと仕事して行きますか。)
コレットは男性の横を通り過ぎ、スッとハンカチーフを落とす。
「…ん?」
とその男性がハンカチーフを手に取り顔を上げた瞬間…。
フワッとスカートを動かし足元をチラつかせる。
「ッ!………。」
「ふふ………。」
そしてコレットは見上げる瞳に目を細めるとそのまま背を向けカーテンを閉じ、その先のテラスへと進んだ。
「あの…お嬢さん?これ落としましたよ?」
「あら、ご丁寧にありがとうございます。」
(きたきた…。)
と沸き立つ感情を抑えつつゆっくりと振り返り扇子を持っていない方の手を彼へと伸ばす。
そして差し出されたハンカチーフの上にそっと自分の手を重ね、いつもの倍以上かけて瞬きをしながら彼の瞳を見上げた。
「…あら、今日のお召し物は瞳に合わせていらっしゃるのね?」
仮面の奥で輝く青い瞳に思わず息を飲み見惚れてしまう。
「あぁ、そうみたいですね。装飾類にはあまり興味がなくて…。」
(あぁ、彼にはこの瞳を見つめ服を選ぶどなたかがいるのね…。)
とほんのりと笑う彼になぜかコレットは眉と肩を落とした。
「ッ!………。」
そんな彼が急にコレットの細い腰に手を伸ばしクイッと体の向きを変えさせると、灯りの当たる彼女の瞳を覗き込む。
「君の瞳はショコラのようだ…。」
「ッ………そ、そうかしら?」
コレットは少し熱を帯びた自身の体を彼から離し、香りを彼へ届ける。
「も、もし"私以外"で猫に興味がおありならこちらへいらして?」
「ん?どこに行けって?」
「オンドリが導いてくれますわ…。」
と彼の胸元に笑みを送りながらコレットはカーテンを閉じた。




