12.
「ッ!…フレッド!?」
コレットは急に現れた温もりと青く冷たい瞳に、時が止まったように体を硬くした。
「な、何だお前は!離せっ!」
「俺はこの手は何だと聞いているんだ。」
「ッ!…。」
フレッドは男の腕を掴んだまま粛々と問う。
コレットは今まで見たことのないような高圧的な彼の態度に、あの男のように腕を掴まれているわけでも、上から冷たく睨まれているわけでもないのにヒュッとのどが締まるのを感じ取る。
「おい…聞いてるのか?」
「ぐあぁっ!」
「フ、フレッドッ!…もういいの!別にこの方が私に何かしたわけじゃないわ。」
「それは俺が止めたからだろ?…ッ!あぁ、すまない…。」
「こ、こんな店もう二度と来るかぁ!」
男の腕からさらにギリギリと嫌な音が鳴ったかと思うと、大きく開いた口からは濁った悲鳴が上がり、コレットは急いで彼の胸元を引っ張り制止した。
そしてフレッドがコレットを視界に入れた瞬間、青い瞳から冷たさがふっと消え、なぜか彼はコレットに対して詫び、その拍子に男は捨て台詞を吐きながら店から飛び出して行った。
「どうして…貴方が謝るの?」
「君をひどく怯えさせてしまった。本当にすまない…。それにもっと、もっと俺が早く来ていれば、こんなことにはならなかった…。」
フレッドは申し訳なさそうに眉を下げ、コレットの頬に手を添えた。
そして彼の親指が頬を伝う筋を優しく拭ったことで、コレットは自分が涙を流していることに気づいたのだ。
「ッ!…あ、いやこれは怖かったとかそういうんじゃないわ…。わ、私は魔女よ?あんな男、私ひとりでもどうとでもなるわよ。」
「なら…どうして?あ、俺に触れられるのが…そんなに嫌だった?」
「ッ!…。」
ふとコレットの体から温もりが離れ、彼は最後に会ったあの日のような哀しみを帯びた深い瞳を、下へと沈ませた。
「ち、違うわ!そんな嫌だなんて…思うわけがないでしょ?」
「…なら、なんでそんなに泣くんだい?お願いだから泣かないでおくれ…。君の涙を見ると、息が止まったように苦しくなるんだ。」
「………。」
そう言う彼の瞳も深くキラキラと揺れ始め、コレットもまた、息が止まった。
そしてこの時コレットは気づいたのだ…。
「フレッド…貴方に会えて、嬉しかったの…。」
「………え?」
「私、貴方にずっと、会いたかった…。」
「ッ!………。」
離れた温もりを求め、コレットは吸い寄せられるように両手を伸ばしフレッドの胸元へと頬を寄せた。
「え…でもその…迷惑じゃないのかい?」
「えぇ、迷惑よ…。」
「え…」
「もうっ…何をしてても貴方のことが頭から離れないの…。お砂糖は切らしちゃうし、変な魔法は作っちゃうし、急に現れて急に居なくなるなんて…本当に……っ…貴方って迷惑な人よ。」
「ッ!………あぁ、コレット…。」
コレットは目から溢れる熱いものも、気づいた途端に溢れかえる想いも何もかも止めることができず、ぐしゃぐしゃになりながら彼に必死で言葉を放った。
そしてその全てを受け止めるかのように、フレッドは温かく大きな手で優しくコレットの顔を掬い上げ、青い瞳で真っ直ぐに彼女を見つめた。
「コレット…。俺は出会った時から君に心の全てを奪われた。知れば知るほど、君は魅力的な女性だ。俺は君を…愛してる。」
「ッ!………フレッド…。」
「君は?君は…どうなんだい?」
「………でも私は魔女よ?」
「そんなこと関係ない。むしろそれも、君を魅力的にするひとつさ。」
「………私、貴方のことが好きよ。私も貴方を…愛しているわ。」
「ッ!…あぁ、コレット…。」
ふたりは熱く見つめ合い、お互いの背中へと回した腕にキツく力を入れながら、何度も何度も角度を変え確かめるようにキスをした。
そしてこの時さらにコレットは気づいた。
自分は"魔女"であると。
魔女は気まぐれで酷く強欲である…と。
だから何を気にすることがあろうか。欲しいものは魔法でも何でも使い、手に入れればいいのだ。貴族だの階級だのは関係ない。彼が私を愛し、私が彼を愛しているならそんなものどうでもいいのだ。
「あぁ、フレッド…愛しているわ。」
コレットは腕の中で微笑む彼にそう甘く囁き、ゆっくりと片方だけ頬を持ち上げた。




