【第一章6】心得え数か条
「今からここで軍務をこなす上で必要なことをすべて教える。だがお前を受け入れるわけじゃねぇってことはその頭ン中刻み込んどけよ」
「わ、分かってますよ。そんな事わざわざ言わなくたって…」
「つべこべ言うんじゃねぇよ性悪メガネ、いいか、ここは北鰐を食い止める最前線だ。それを理由にここに配属されるのはほぼ全員が天与礼者だ。だが軍の中で天与礼者っつうのは人間として見られない、捨て駒のように扱われる。だがな、いくら犬見てぇな扱いをされようったって、俺等には国を守る最前線としての誇りがある。だから俺らは俺等をまとめ、守り、引っ張ってくれる中将を尊敬している。お前の父親の総監よりもな。だからまず一つ覚えとけ」
良然はぎろりと剣呑な目で僕を睨んだ。今日だけでも何回も彼に睨まれたが、この目つきは今までとは違った。…そんな気がする。
「決して中将を侮辱するな。あの人は俺らの絶対的な王だ。…これだけは覚えておけ。そして、もしお前があの人の仇になるっつうなら、俺はお前の喉に噛みついて引き裂いてやる」
「…肝に銘じます。絶対に中将様の敵にはならないと」
「よし、そんじゃ主題に入るぞ。まずお坊ちゃん、お前は監査官だから中将に付きっきりになる。そのうえで中将は左側を認識できねぇことを覚えておけ。だから左に立つなよ、気配で警戒されてふっとばされても文句言えねぇからな」
「左側を認識できない?それって中将としては致命的なのでは…」
「ばぁーか、中将がそんなヤワな訳ねぇだろ。俺とお坊ちゃんとあと一人ぐらいで飛びかかっても返り討ちになるだけだ。まぁ、俺が見たことあるヤツで勝てそうなのは天与礼者のアイツくらいか」
「おや、どなたです?」
そう聞くと良然は顎に手を当てて、しばらく左上に視線を彷徨わせる。少しして鼻でフッと笑ってから肩を竦めた。
「いや、中将なら例えあの『死有分』でも敵じゃねぇだろうな。ま、中央勤務だから名前ぐらいしか知らんけど、俺等にはこれっぽっちも関係ねぇし」
「死有分」とは穏やかではない。中央基地には死神のような天与礼者がいるのだろうか…末恐ろしいものである。
「最後にこの椿苑で中将の次に逆らっちゃいけねぇ人を教える。女医の白姐には絶対に逆らうな、分かったか」
「そ、そんなに怖いんですかその人」
「いや、見た目は白兎見てぇな人だけど…ここだけの話、中将ですらあの人には逆らわねぇ。悪いことは言わねぇから女医の話はちゃんと聞けってことだ」
「わかりました」
医者に逆らおうなんてまったく思わないけれども、それでもあの熊のような図体の中将が逆らわないという女医の姿は非常に気になる。白兎のような、とは言っていたが…いずれにしろきっと会うことになるだろうし、しっかりと脳に残して置かなければ。
その後、良然からは細々とした基地の規則を教えられた。全体的な数は多くはなかったものの、話の本筋を離れることが度々あったために本館に戻る頃にはすっかり日が暮れていた。この地方は日が沈むのが早いためか自分の体内時計とズレて感じる。
「はぁー…お坊ちゃんのせいでこんなに遅くなっちまったじゃねぇか。すっかりお天道さんが沈んでやがる」
「僕のせいにしないでください、元はといえばあなたの無駄話が多いからでしょ」
「せっかく教えてやったのにその態度は何だよ」
「僕は生まれたときからこの性格ですけど」
「っは!尚更鼻持ちならねぇお坊ちゃんだことで!」
「僕もあなたの性格が嫌いですので、悪しからず」
「こいつ…っ!」
「んー?なんだ良然、また新人に突っかかってんのか」
前方から手提げランプを持った隊員がニコニコとしながら話しかけてきた。良然は彼の顔を見るなり、あからさまにげんなりとする。
「突っかかってねぇし。つうかなんでここにいんだよ」
「ひどいなぁ、遅くなった君たちを心配した残方中将が、わたしに迎えに行くようにご命令したんだよ」
「俺はガキじゃねぇっつうの。もう28だぜ俺は」
「おや、てっきり僕は未成年かと…随分と図体と態度が大きいと思えば年上でしたか」
「あ?誰の態度がデカいっつった?つうかお坊ちゃん俺より年下かよ」
「信じがたい話ですがね。僕は23ですから、あなたより5歳年下になりますね」
「だったらもっと年上を敬えよ」
「尊敬できるところがないのに?」
「はぁ!?尊敬できるところしかねぇだろ!」
「楽しそうだねぇ、もう友達になったのかな?」
「絶対にごめんですこんな山猿」
「はっ!メガネフクロウがなんか言ってら!」




