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【第一章5】崩れ落ちたものは

「お主らは顔を合わせれば喧嘩ばかりだなぁ…元気があるのは良いがもっと仲間意識を持てんのか」

「…」

「すみません…」


なかなか戻ってこない僕と良然を反省室まで探しに来た他の隊員が、彼自身では手の施しようのない喧嘩を止めるべく中将を呼んだ。呼ばれてきた中将はため息を付きながら呆れたように僕と良然に強めのデコピンをお見舞いした。

 そのデコピンのお陰でお互い落ち着いて床に座って項垂れているわけだけれども…まだ額がヒリヒリとしていて多分赤くなってる。自分と同じ状態になっているであろう良然を見ると彼の額には赤い跡が一つ残されていた。

 中将は再びため息を付いて扉に寄りかかる。下から見上げる中将の姿は威圧感があり、呆れたような表情ですら怒られているのではないかと錯覚してしまう。


「先に喧嘩を売ったのは誰…いや、いや。それを聞きたいんじゃない。だからお互いを指さし合うのはやめろ、儂が言いたいのはいいか?喧嘩を売ったのが誰であれ、その喧嘩を自分たちだけで落とし所を見つけろっつうことだ」

「俺やっぱ嫌だよこんなやつの面倒見んの。だってこいつも中央から来てんだろ」

「中央、中央と言っているがお前も中央から来たじゃろうに。それにお前の幼馴染みも中央におるのに中央勤務をそうやって悪と決めつけるのはどうなんだ。それにこの監査員殿は今年が初めての軍務ぞ」

「は?新入隊員なのに監査員ってありえんの?」


怪訝そうな表情でじろりと僕を見る良然。中将をちらりと見ると肩をすくめて『説明してやれ』とでも言いたげな表情だった。


「僕の父は朴軍事総監です。二ヶ月ほど前に、勝手に監査員に任命されていつの間にか軍に入っていました」

「ケッ、コネかよ。ってぇ!」


悪態をつき終わるや否や中将の拳が良然の脳天にめりこんだ。


「軍事総監は儂より偉いんじゃから少しは口を慎め。全く…そんなんだから、天与礼者でも無いのに落火に左遷されるんだ」

「中将様も上から数えたほうが早いのでは?さほど差は無いはずですが…」


基本的に階級は上から大将、中将、と続いていく。総監はすべての部隊の取りまとめ役で大将の上に位置するとはいえ、表面的には大将や中将とは権力的な差はない。

 中将は少し遠くを見るような目で僕を見たあと首を緩く振った。


「あぁ、やっぱり監査員殿は今年入ってきたばかりだから知らぬのか。致し方がないことではある、民間と軍の間には天与礼者の認識が全く異なるからな」

「あのすみません、話が読めないのですが…」

「軍では天与礼者は人間として扱われねぇってことだよ…総監の息子のくせにんなことも知らねぇのか」


さっきまで不満げに口を尖らせた良然は髪を適当にかき乱してボソボソと話しだした。その内容に頭が冷え固まっていくような気がした。しかし同時に、今朝中将が他の軍人の前で天与礼者である彼らに丁寧な態度を取らないように、と言った理由が分かった。おそらく、僕が厄介な事に巻き込まれる前に止めてくれたのだろう。


「でも、だって、天から礼として人間離れした力を得たのが天与礼者でしょう?人間離れとはいえ、人間として扱われないって…」

「うむ、そこは政治的と言うか、さまざまな思惑が絡み合って複雑な背景があるから知らんでもいい。むしろ期限付きで勤務する監査員殿にとっては知らないほうがいいじゃろう。だが、監査員殿の常識は民間で培ったもの、ここでは通用しないことも多かろう。故に同じような経緯を持つ良然を案内役に選んだのだ。良然よ、分かってくれるな?」

「…けどよ」

「二言は許さん、これは命令だ。わかったな?」

「…かしこまりました…」


良然はいかにも不服そうな顔で頷く。それを見た中将は肩の荷を降ろしたようなため息を付いて、分厚いクロークを翻し部屋を出た。


「おぉ、そうだ。忘れるところだったが、良然、儂の左半分のことを説明しておけよ」

「わかってるよ。こっちはさみーんだからさっさと本館戻れよ!」

「やかましいわ、年寄り扱いしおって」


やれやれと首を振って出ていく中将を見送ったあと、良然は「はぁー」と長ったらしいため息を付いて正座を解いて胡座をかいた。

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