【第二章21】モテる男はツライ?
情報管理部での一件から2日が過ぎて、僕が椿苑基地に来てからとうとう一週間が経とうとしていた。その間、中将が天命礼記のことを知っているのを良いことに、僕は開き直って一方的に謝り倒した。かなりの勢いで僕が謝ったものだから中将は最初タジタジだったが、話を説明すると納得したように笑ってくれた。
曰く、元気がなかったのが気がかりだったが、中将が想像していたよりずっと気楽な話だったらしい。僕からしてみれば全く気楽なんて言えた悩みではなかったのだが…
なにはともあれ、わだかまりが消えるというのは実に良いもので、二日目には良然と喧嘩を始められるようになった。更には仕事も一段落し、僕の次に来るはずの監査官が見るための書類等も作っておいた。もちろん!しっかりとした内容でかつ僕が見たような支離滅裂で汚らしく情報も古いあの資料とは!まったく似ても似つかないものだ。
初めて作ったにしては上出来なそれに満足していたら、目の前にいくつもの紙束がドサッと落ちてきたのだ。驚いて顔を上げると良然がニヤニヤと笑ってその紙束を指さした。
「初仕事お疲れさん、次の仕事が待ってるぜモテ男」
…と、言う訳でいま僕は椿苑基地にきて五日目にて、ようやくしっかりとした監査官の仕事を始めるに至ったと言う訳である。
僕が新人且つここに来たばかりだから 、あまり仕事を与えられていなかったのではなかった。僕がすべき仕事があまりにも多かったから中将の意向によって、少し少なめに割り振られていたというのだ。確かに事前に自分で監査官のすべき仕事をまとめて分かっていたが、僕が馴染みのないことばかりで、もしいきなり全てやれと言われたらどこかでおざなりになってしまうかもしれない。
と、二日間の回想を挟みつつ伸びをする。前任と僕両方がいなかった期間で溜まっていた報告書と申請書の確認と認証をしなければいけないのだが、中にはこんな些細なことも許可が必要なのかと思うものもあった。そのすべてに承認したという印が必要なため、朝来てすぐにペンを休みなく走らせていた。
何の前触れまなくドアが開かれ、その様子に既視感を覚える暇もなく良然が薬袋を片手に入ってきた。
「戻ったぞ、これ追加の薬だってさ。あと体にいいお茶ももらってきたぞ」
「うむむ…前回の茶も飲み切っとらんというのに…そうだ、お前たちも飲んでみないか。案外好きな茶やも知れんぞ」
「押し付けんなよ中将。んな駄々こねてねぇで白姐のためにもちゃんと飲めって。白姐心配してたぞ」
「道理で来る人来る人にお茶を勧めていたんですね。大人しく飲んでしまったほうがいいのでは?」
「そうだぞ。って…んだよお坊ちゃん、さぼりか?」
「どの口が僕をさぼりなんて言うんですか。朝時間が取れなかったのでいま家の手紙を読んでるんです」
そう答えると急に良然は僕の机の上に広げられた手紙を覗き込み、読もうとしてきた。
少しムッとしながら手で手紙を隠してにらみ返す。すると途端に興味を無くしたように肩をすくめていつもの位置、本棚の前の椅子に腰かけ、その手前の本を読み始めた。思い返してみれば一週間ずっと同じ本を読んでいる気がする。
これ以上邪魔される気配がなかったので、ゆっくりと手紙の上から手をどけて目を通し始める。が、何か変だ。僕はしっかりと手紙を書いて出しておいたはずなのに、まるで手紙が届いていないかのように輝静さんはなぜか怒っている。『再三言っているのにどうして朴夫人にも手紙を返さないんだ?反抗期か?』などと言われて大変遺憾である。一言、言わせて欲しいが僕の反抗期はとっくのとうに終わっている。大体僕はもう成人である、反抗期なんて続いているはずがない。
それはそうと、一体どうなっているんだろうか。もしかして僕が出した手紙は間違った所に出したから捨てられてしまったのだろうか?いやだとしたらなんで橙恩は教えてくれなかったんだろう。
…まぁ、彼を責めても仕方がないか。もう一度書き直すしか道はないだろうし。はぁ…めんどくさ、いや、大変なことになったな。
「なんだ、手紙で何か言われたか」
「えぇ、実は僕が出した手紙がちゃんと届いていないか出せていないらしく、手紙を出せと怒られてしまいまして…」
「うーむ、検閲に何か引っかかったか…もしくは出し口を間違えたやも知れんな。少し遠いが、町の郵便局に出したほうが確実だ。今度時間をとって出しに行ってはどうだ」
「そうだったんですか…ぜひ、そうさせていただきます。本当にありがとうございます」




