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【第二章15】居心地の悪さ

 しばらく椅子にもたれかってふと時計を見ると、そろそろ朝食を取らなければいけない時間であることに気がついた。遅れてはいけないと慌てて手紙を封筒に戻して、身支度を始めて部屋を出た。

 僕は椿苑基地に勤務はしているが、正規な軍人ではないのでどこかの部署に所属はしていない。そのため集合・点呼・訓練が無い。正直なところすごくありがたい。もし訓練まであったら1日中へばって仕事ができない状態になってるであろうことは想像に難くない。自身の深刻な運動不足を解消しなければとは思うが、いざ行動に移そうとすると億劫で仕方がない。


 訓練の終わりにばらつきがあるのか食堂はあまり人がいなく、また天与礼者ではないのも僕と良然だけなので、料理を受け取るのも座って食べるのも早いものだった。


「んだよお坊ちゃん、一人か。虚しくねぇの?一緒に食う相手ぐらい作れよ」

「…別にいいでしょう、迷惑になっているとかならともかく…」


1人分の食事のトレイを持った良然が目を細めていつも通りの憎まれ口を叩いた。いつもなら皮肉やら何やらで言い返す。だが、今は言い返すのも億劫だ。顔向けできないというべきか、あの本を読んだ後の罪悪感が何度も蘇って自然と口数が減ってしまう。


「腹でも壊したか?不気味なぐらい静かじゃねぇか。ま、いつもがうるせぇから今がちょうどいいんじゃね?」

「そうですか」

「あとなんで朝の訓練に来ねぇんだよ。監査官だからっつってサボって良いとでも思ってんのか?だからそんなヒョロヒョロなんだよ」

「すみません、明日は行きます」

「お、おう…なんだ、本当に腹壊したのか?早く便所に行って来いよ」


気味悪そうに顔を歪めた良然はそそくさと離れて他の席に移動した。どうしてこっちが少し大人しくしてると向こうまで大人しくなるんだ、もっとグチグチ言われるかと思っていただけにちょっと気味が悪い。


 朝ごはんを食べ終えて、中将の執務室へ行く前に資料を取りに情報管理部に足を向ける。業務に必要な書類がいくつか欠けていたので受け取る予定だったのだ。初めて行く部署だったので本当は楽しみにしていた。椿苑基地の歴史が詰まっていると言っても過言ではない部署だし、きっと興味深い資料があるに違いないとわくわくしていた。


 だが今は蘭慶に会うかもしれないと思うと足がまるで鉛のように重い。一歩一歩進むごとに体が沈み込んでるんじゃないかと思ったほどだ。もしそうだったらどれほど良かったことか、実際には沈むなんてことはなく、着実に情報管理部に近づいていた。

はぁ…親切にしてくれた蘭慶に顔を合わせるのが本当に気まずい。もちろん向こうは何も知らないから僕が一方的によそよそしい態度を取っていたら逆に失礼だというのは分かっているけれども…


「失礼します、朴久藍ですが資料を受け取りに来ました」

「中将様からお話は伺っています。こちらにまとめておきましたのでどうぞ」

「ありがとうございます」


幸いなことに対応してしくれたのは蘭慶ではなく別の人だったが、この人も天与礼者であることを理由に嫌がらせを受けたのだろうかと思うとひどく申し訳ない気持ちになる。本当にどこに行こうと誰に会おうと罪悪感のような気まずさがついて回る。

 それにこの後、中将や良然とも顔を合わせるのかと思うとすごく逃げたい。特に中将への申し訳なさが強く、顔を合わせるのもなんだか無礼な気すらしてくる。なんなら今すぐにでも荷物をまとめて夕崢へ戻りたいくらいだ。


 受け取った書類を歩き読みして、なるべくすれ違う人と顔が合わないようにしながら執務室へと向かう。ドアノブに手をかけようとした時、勝手にドアが開いて中から良然が顔を出してきた。


「噂をすりゃあなんとやらってやつか?中将、お坊ちゃん来たぜ」

「来たか。もしかすると迷っているかもしれんと思って良然に迎えを頼むところだった。すれ違いにならんくて幸いだったな」

「ご心配ありがとうございます、道中で資料を確認していましたので遅くなってしまいました。申し訳ございません」


深めに頭を下げると中将は手を降って構わないと言った。のっそりと顔を上げると物言いたげな良然と目が合い、その瞬間良然は腕を組んでそっぽを向いた。言いたいことがあるなら好きに言えばいいのにと思いながらも僕から詮索はせずに資料を手に座って昨日の仕事の続きに手を付ける。

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