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【第二章14】取り巻く空気の匂いは染み付いて

 起床時間よりも少し早い段階で自然と目が覚めて、そのままベッドに腰掛けてぼんやりと床の木目を見る。

 昨日の夜、本を燃やした後、その場に足が縫い止められたかのように本が燃える様子を見ていた。表面を火が舐めて次第に焦げている部分が広がり、ページが熱風でパラパラとめくられていく様子や、紙が燃える少し甘い匂い。気持ち悪くなるような肉の焼ける匂い。

 その時は何も思わなかったが、やはり少し変だ。なぜ本から肉が焼ける匂いがしたんだろう。確かにその時はぼんやりとはしてたけど、あの嫌な匂い、肉の焼けるようなあの匂いだけは、はっきりと覚えている。気の所為なんかじゃない。しかも肉が焼ける匂いって言ったら、食欲をそそる匂いのはずなのに、あれはむしろ吐き気を催すような匂いだった。


 考え事をしていた中、突然響いた木を叩く乾いた音にビクッと我に返り、慌ててドアを開けた。


「は、はい!どなたです?」

早上好(おはようございます)!朴久藍さんですね!お手紙をお持ち致しました!」

「あぁ早上好…って、え?手紙?誰から?」

「自分にはちょっとわからないんですけど…他のお手紙も配達しなければいけないので、失礼しますね!」


ちょいと帽子を上げて軽く礼をして大量の手紙を抱えた彼は次の部屋を尋ねて軽やかに歩いていった。

 ドアを閉じてまだ手紙を裏返すと、よくよく見知った名前があった。


「輝静さん?随分手紙が早く届いたな…まだ僕の手紙は送られてないんじゃないかな?」


小さく独りごちながら、他になにか書いてないかと手紙を隅から隅まで見る。さっきの鬱々とした空気すらどこかへ行ってしまったような気分になり、椅子に腰掛けて逸る気持ちのままに手紙の封を開く。四枚ある紙にびっしりと書かれた文を見て絶句するが、まぁいつものことかと思い直した。


『親愛なる冷たい兄弟へ。わたしとの約束をぶった切ったのに連絡はなしかい?こちらとしては君の制服も役職も準備して待っていたのに、朴夫人のところへ行ってみればあらびっくり、君は落火に行ってしまったと言うじゃないか!これはひどい裏切りだ、高くつくぞ少年。

だけれども君のお父上の長年の願いであった、つまりは君が軍人になることがお父上の存命中に叶って良かったとも思う。まぁ君の言い分は分かる。恐らくだが君はこれを読んでいる時、あんな親父の願いなんか叶えてやるものか!と、憤っているのかもしれない。だがこれを機に君も少しお父上と会話を試みても良いんじゃないか?

わたしは夕崢でのんびりと君の活躍を噂に聞くのを楽しみにしているよ。そして軍務を終えたらわたしの店に来るといいさ。君は有能だからいつでも歓迎だからね。』

『追記、朴夫人の手紙も同封してあるから2枚目以降もしっかり目を通すように。』


なるほど、2人分の手紙が同封されて四枚だったのか。にしても輝静さんは相変わらず達筆だ。読むのに少々手間取ってしまう。

 輝静さんの手紙を後ろに回し、母さんの手紙にざっと目を通す。輝静さんの達筆な字と違って母さんの字は柔らかい筆跡で、見慣れているからか読みやすくて助かる。


『拝啓 久藍へ。

落火についたら連絡のためにお手紙を書きなさいと言ったのに、久藍が行ってから音信が全くありません。母は心配です。そういうところまでお父様に似なくても良かったのにと思いますが…でもお父様に似ているからこそ、久藍がうまくやって行けていると母は信じていますよ。

兎にも角にも、この手紙を見たら早い段階で手紙をお書きなさい。あら、もしかしたら手紙がすれ違っているのかもしれませんね。落火は寒いでしょうからしっかりと着込むこと、風邪などには気をつけること、定期的に連絡をよこすこと、あとは…いえ、言い過ぎないでおきます。久藍はもう子供ではありませんしね。』

母さんの手紙を読み終わって、長い溜め息をつく。母さんが親父をまだ愛して尊敬しているのは分かる、だからこそ迷ってしまう。本のことを話すべきか、話さないでいるか。

 親父の側面を知ってしまった以上、母さんには親父のそばにいて欲しくないというのが僕の本音だ。しかし母さんは違うだろう。多分…だけども。


「知らないほうが幸せなときもある…か」


知らせたところで、母さんは変わらないだろう。そういう強情な人でもあった。

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