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【第二章13】天命礼記 著者:朴黎鳴

 本を開いてみると本来香るはずの紙の匂いではなく、なんだか得体のしれない金臭さが嗅覚を刺激した。どれだけ臭くても一応気になるので匂いには我慢して鼻を押さえながら読み進めていく。


 「序章 人間性を保有しない人種について」から始まったそれはおぞましい内容の羅列だった。まったくもって筋の通らない主張、意味不明で情報源もわからない事件の情報…それらは全て天与礼者を人ではなく道具として扱うようにと指示するための理由だった。

 やれ、天与礼者たちの力は天から奪ったものであるやら、人並み外れた力に酔いしれ、まがい物の力の強大さに洗脳されている奴らをいかに正しく使いこなせるかが軍で求められる器量だとか、制御できなかった末にこうこうこう言った事件で何人もの被害者が出ただとか。


 ふざけるな。

こんな事件は新聞はおろか、風の噂にすら聞いたことのない事実無根のことであるし、椿苑基地で勤務する彼らは完璧に自分の力を使いこなしている。力に酔いしれてる?強大さに洗脳されている?笑わせるな、彼らは雪に覆われたこの地で激しい攻防戦を繰り広げ、前線に立って国を、民を守っているんだ。

 日々の仕事で目を通す書類の上の文字列で何人の隊員が犠牲になったか、どんな苦悩が、障害が、悲しみがあったか。それを知らないくせにこんな嘘っぱちを書き連ねるとは。何よりこれを書いたのが自分の親父だというのが、本当に情けなくて情けなくてどうにかしてしまいそうだ。


 持っているのも嫌になって本を払いのけるように机へ放り投げると、たまたま本の裏表紙が上になり、底に書かれていたちょっとした文章が目に入る。


『強大な力を正しく使う為に、守るべき無力な国民の為に、天与礼者を正しく使う為に』


あぁ…全てが繋がった。つまりあの親父は落火に赴任する監査官にこれを読ませて妙な先入観を作り、天与礼者たちを迫害せんとする環境を作っていたということだ。

 どうしてこんな無意味なことをするんだ?不本意だが親父が無駄を嫌っていることなど熟知している。こんなことをして親父に何の利があるって言うんだ?


 だいたい、軍の中に亀裂を作るような真似をしてそれが本当に軍のためになると思っているのか?天与礼者だって、守るべき民だし、国を共に守る仲間ではないのか。この亀裂が後にどんな影響を生み出すのかなんて少し考えれば分かりそうなものだ。前線を張っている人らに敵意を持たれるような真似をして何がしたいんだ?

 それに母さんから聞いていた父はこんなことをするような人間ではなかったはずだ。仕事しか頭になく、高潔という言葉で覆ったバカバカしい理想を掲げる生粋の軍人。それが母さんの知る親父の姿のはずだ。もちろん母さんと僕を蔑ろにしていたことには今でも腹が立っているし、父親として尊敬する心なんて持ち合わせていないが、それでも軍人としての「朴黎鳴」は尊敬していたのだ。それが、こんなたった一冊の本で全て消え去るだなんて、思ってもいなかった。


 「中将達が親父と僕が似た者同士だと思っていたらどうしよう」と、突然そんなことが頭の中に浮かんだ。

 もし中将たちがこの本を持っているからと言って、僕をこんな、最低なことを考えているような人間だと考えたら。親父と僕が似た人間だと思われているだなんて、それ以上に最悪なことはない。

 そうだ、燃やそう。こんな本、僕が持っていると知られたら終わりだ。燃やしてしまおう。確かこの建物の裏に床暖房用の竈があったはずだ。そこで燃やしてしまおう。

 僕は急いで外套を羽織り、その外套の下に本を隠し持って部屋を出た。誰にもバレないように極力足音を立てないように移動するが、古い建物はどうしても歩くたびに木が軋んでしまう。


 いつになく長く感じた道を走ってようやく竈がある部屋の前に着く。さっきまで走っていたのに急に止まったせいか、それとも不安のせいか今にも吐いてしまいそうな程に気持ち悪い。それでもめまいと吐き気を堪えて深呼吸しながら釜の蓋を開ける。途端に熱風が吹付けて、これ以上息が続かなくなる前にと本を炎の中に放り投げた。

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