【第二章7】手紙を出すまでの寄り道すがら
椿苑基地に来て三日目の朝。落火では、朝起きる頃には温めていた部屋はすっかり熱を失って、足をつけるのも躊躇われるほど冷たい床板の上に立つことを強いられることから始まる。しかしそれを乗り越えたあとも、ひんやりとよく冷えた服で寒さに無防備な体を包まなければいけないのだ。
拷問のようなそれらに耐えきったあと、懐に手紙を入れて食堂より先に正門に向かう。道中の運動場では既に雪かきを終わらせて訓練を始めている隊員が多くいて、その訓練も多種多様なためについ目を奪われてしまう。
主に天与礼物を使った訓練が多いため、雪煙を巻き上げながら大きめのつむじ風を制御して竜巻に変えていく様子や、空中に雪の塊を投げたかと思えばそれは氷に姿を変えて礼者の手の動きに合わせて正しく的の中心に突き刺さる様子。その全てがまるで魔法のようで、年甲斐もなく歓声をあげて見入ってしまった。
「ほうれ皆!気を張って訓練しろよ!新入隊員があすこで歓声をあげて目を輝かせてらぁ!」
そんなに大きな声を出したつもりは無かったのに聞かれていたのか、隊員の訓練を指導していたガタイのいい人が声を張り上げて隊員たちを鼓舞した。
どうにも居た堪れず、子供っぽかったのが本当に恥ずかしく、軍帽を目深に被り直してすぐに立ち去ろうとしたその瞬間に突然誰かにぐいっと肩を組まされた。
「あれをよく見な新入り!ウチは軍の天与礼者の中でも選りすぐりだ!向こうで訓練してるのが干渉系の礼者、その向かい側が根幹系の礼者だ。そうだ、ちょうどいい機会だしこれから模擬試合を始めよう!おいお前ら!干渉系と根幹系に分かれてチームを組め!勝利の条件はただ一つ!」
そしてバッと大振りな動きで雪の山に手を向ける。するとただの小さな雪山とその周りの雪が勝手に動き出し、一つの塊にまとまり、段々と人の形を取り始めた。最後に仕上げと言わんばかりに指導官が「ふん!」と力むと、雪の塊はムクリと起き上がり戦闘態勢をとった。
なんてこった…むちゃくちゃかっこいいじゃないか!一体だけじゃないぞ!?後ろにもう一体いる!本当に無茶苦茶だ!
「俺が作った雪の巨人を破壊しろ!いいか、全力で挑め!そいつにはいろいろな『仕掛け』を施してあるから、そう簡単には崩れん!もう一度言う!全力で挑め!」
掛け声とともに隊員たちは一斉に雄叫びを上げて次々に攻撃を仕掛ける。
一人の隊員が地面に手をついたかと思えば、ボコボコと土が盛り上がり、生えてきた茨がたちまち雪の巨人を雁字搦めにした。もちろん巨人とて大人しくやられるわけもないから、やたらめったらに暴れ狂って茨を引き離そうとする。それを完全に自由の身になる前にと、全身を炎がチラチラと交じる熱風で溶かし切ろうとしたり、氷の杭を打ち込んで拘束しようと奮闘する干渉系の礼者達。
おそらく干渉系というのはその名の通り、物質を生成したり植物や風を操れるのだろう。あまりの派手さにこっちにまで余波が及ぶのかと思えばそんなことはなく、強面な風貌の指導官がニコニコと驚くほどいい笑顔で雪の壁を作ったりして庇ってくれた。
とにかく派手な動作が多い干渉系の礼者達が目を引くがしかし、そんな無茶苦茶な力に負けず劣らず根幹系の礼者たちも巧みに巨人の体を崩していく。とんでもない高さにいきなり現れたかと思えば、手にした模造刀を巨人に突き刺して崩そうとしたり、二人一組になったかと思えば一人は成人男性を片手で投げ飛ばし、投げ飛ばされた方は歓声をあげながら巨人に突き刺さり、そこを中心に中規模の爆発が起きて巨人の中心に風穴が空いた。
干渉系とは反対に根源系は自身の状態を変化させられるのか、人間離れした運動神経を持っているらしい。なんで爆破したのかはさっぱりわからないが、とにかくかっこいい!
…にしても体の部位が崩れようと動きを止めない巨人は確かに頑丈に作られているのかもしれない。比較対象がわからないからよくわからないけれども。しかし僕は懐にある手紙を出したあとに朝食を食べて中将のところにいかなければ行けない。だが隣にいる指導官が嬉しそうに「今雪像の腕を壊したのが誰々で―」とか説明をするので、こっそり抜けようにも抜けられない。




