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【第二章4】癒やす息吹

白姐は痛ましそうに顔を顰めて深呼吸し、そっと患部に息を吹きかける。すると傷が新しい皮膚に呑まれるように徐々に小さくなって消えていく。白姐が再び息をつく頃には、中将の腕にあった赤い引き攣れはもうすっかり見る影もない。


「ありがとう、もうすっかり不快感もなくなった。やはり小白は落火一の医者だ」

「皆さんを助けるための礼物ですから」


白姐は複雑そうに、しかしどこか誇らしげに微笑む。

 実のところ、僕は初めて天与礼者がその能力を使うところを見たけれど、確かに天が授けたと疑いようもない奇跡のような力だ。痕が残ってしまいそうな肉肉しい引き攣れが綺麗サッパリ消えてしまったのだ。それも、ホコリを払うようにふぅと息を吹きかけただけである。

このような力を持ちながらも、なぜ先程の病室で寝ていた大勢の患者たちは直さないのだろう。それに、こんなすごい力があったら中将の左側が認識できない障害も取り除けるんじゃないか?


「監査員殿、改めて紹介しよう。彼女はこの基地唯一の医者である白香風(ばいしゃんふぉん)だ。もし怪我をしたなら彼女に頼るといい。治療なら彼女の右に出るものはおらんからな」

「はじめまして。追加で説明しますと、怪我は治せますが骨折や体内に関わるものは私の礼物では治せませんから、お気をつけくださいね」

「ご忠告ありがとうございます白姐さん。僕は朴久藍といいます、挨拶が遅れて申し訳ありません。何卒お世話になります」


なるほど、これでようやく合点がいった。おそらく彼女の天与礼物も万能ではなく、息吹が届くところまででしか傷の治療ができないのだろう。だから病床人がいるのだ。だがそれにしてもすごい礼物だ。表面の傷さえなんとか塞いでしまえば細菌感染や害虫の増殖を防げる。小さな傷から破傷風になってしまうことも考えると素晴らしい名医だ。


「今回の監査官さんは気の良い人で安心しました。前任の方は…こんなことを口にするのは少し憚られますね」


白姐は困ったように頬に手を当てて同意を求めるように中将を見る。中将も苦笑いをして肩をすくめた。


「素直に前任の頭がおかしいって言えばいいんじゃね?」

「まぁ口が悪いわよ良然さん」

「そうですよ良然」

「なぁんでお前がそっち側なんだよ」

「そりゃぁ、ねぇ?医者の話はしっかりと聞きませんと」


二人が言葉を濁して言うのを避けた言葉を、臆面もなく口に出した良然に呆れ、肩をすくめて白姐に目配せすると彼女は眉尻を下げて同調するように笑った。


「ふふ、そうですよ良然さん。お医者さんの話はちゃんと聞いて下さいね」

「白姐までそいつの肩持つのか?勘弁してくれよ」


げんなりと肩を落とした良然は中将の隣に腰をおろし、ドアを通して隣の病床を眺める。

 隣はいくつもの仕切りで囲われた寝台に患者が寝ていたり、小さな声で談笑を交わしている。包帯や点滴が目立つ痛々しい姿の彼らを大きな窓から差し込む西日が橙色に照らす。


「白姐、あいつら結構悪い?」

「…そうね、正直に言うと医療品が少し足りないの。回復しようと頑張っているのに、医者である私が手助けができないのは本当に辛いわ」


そういえば予算書類の中に医療品の欄があったが、僕が見た限り毎年最低限と言った感じだった。もっと正しく言えば予算が許す最低限である。

…医療品、やっぱり足りなかったか。ん?待てよ?医療品が足りない?


「もうすぐ追加の予算が渡されるからもう少ししたら薬が買える、すまんがもう少し頑張ってくれ」

「もちろんです。医者である以上、白は何があろうと患者を見放すことはいたしません」

「あの」

「俺にできることがあれば協力するから言ってくれ」

「あーのー」

「んだようっせぇな、ちょっと黙ってられねぇのかよお坊ちゃんは」

「いや、僕のツテで医療品を融通してもらえると思うんですけど、どうかなと…」


僕が軍に来る前は地元の薬屋に入る予定だった。老舗でありながらも地元以外にも店舗を増やしつつある会社で、たまたま近所に住んでいた店長と話をつけていたのである。

それもどこぞの誰かのせいで軍に入ることになってしまったが故に、その話がなかったことになったのだが。

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