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第15話 ケンカをやめて


 「なんで3人なんだよ」


向かいのテーブルに座った苦賀くが 綾真りょうまは、不機嫌そうに呟いた。


その隣に座る蜜田みつだ めぐるは、そんな言葉も無視して静かに紅茶を飲んでいる。


……この状況、控えめに言って非常に気まずい!


 私の捨て身の提案により3人で会うことは了承されたものの、当然というかビタハニの2人はあまり乗り気ではなかった。


とはいえ、苦賀は待ち合わせ場所をハチ公前からお洒落なレストランの個室に変えてくれたし、蜜田さんもこうしてやって来てくれた。


何だかんだで2人とも仲直りしたいんじゃん。と思っていたのに……。


久しぶりに会ったはずなのに会話もしようとしない彼等の仲の悪さは、かなり重症そうだった。


「そ、そうだ。アイドルバトルロワイヤルの件、ありがとうございました」


この重苦しい空気をまぎらす目的もあり、私は目の前の苦賀に無駄に明るくお礼を言う。


「ああ、あんなの別に」


コーヒーを飲んでいた彼は、その言葉で何かを思い出したようにカップを置いた。


「そういや、今日 会ったら言おうと思ってたんだった」


言いながら、持っていたバッグ(すげぇ高そう)の中から、1枚の紙を取り出しテーブルの上へと放つ。


「これは?」

「なんか要綱ようこう。オーディションの」

「オーディション?」


さっぱり意味が分からない。


「だから、俺とこいつが主演する映画の出演者のやつ」


ちょっとイラっとした風に言われたが、あの言い方で分かる訳ないだろう!


「それが?」


こちらも少し口をとがらせ聞き返したのだが


「お前を推薦すいせんするつもりだから」


さも当然のように言われ、今度こそ私には理解できなかった。


「は?」

「資本と制作はアメリカだけど、日本の漫画が原作で出演者はほぼアジア人ってことで決まってる。キャスト多いから1人くらいなら俺が言えばねじ込めると思う。まあ、セリフのない端役はやくって可能性もあるけど」


つらつらと説明されるが、聞きたいのはそういうことじゃなかった。


「え、あの。どうして、私を?」


本来なら、私はオーディションを受ける資格すらない人間だろう。


なのに苦賀の話が本当なら、これは……完全なコネということ。


こんな、つい半年前まで場末のオーディションにすら落ちまくってた私が。


一体、なんで???


「どうして、って」


私を見据えながら、少し細められる切れ長の黒い瞳。


ダウンライトに照らされた苦賀 綾真は、いつも以上に大人っぽく見えた。


「そんなの分かんだろ?」

「わっ」


ぐいっと急に近づかれた顔。


思わずソファの上にのけぞりヘンな声が出る。


「そ、そんなのって……」


つまり、どういうことだってばよ……っ!


「あ、あの」

「だからさ」


私があたふたと戸惑う間にも、テーブルに手をついて身を乗り出す体。


「俺は、お前に」

「三輪さん」


しかし苦賀 綾真の決定的な一言は、蜜田 巡の声によってさえぎられた。


「え?」

「あ?」


苦賀と私の声が重なる。


視線を向けると、美しい白い手がゆっくりと紅茶のカップをテーブルに下す。


「なんだよ、俺がしゃべってるんだよ」


苦賀の声を無視して、蜜田さんの色素の薄い瞳はじっと私へと向けられていた。


「実は、僕も君に言おうと思ってた」


静かな声に語りかけられ、心臓の音が跳ね上がるのを感じた。


「え、あの」

「今度は、僕と2人きりで出かけようよ」


戸惑う私に最後まで言わせず、彼は確かにはっきりと そう言った。


「……は、はあぁ!?」


え、いやっ。それは、どういうつもりで!?


あまりのことに、顔が赤を通り越して青くなる。


訳が分からなすぎて、むしろ怖い。


いっそドッキリや夢なら良いと思ったけど、どうやらこれはちゃんと現実のようだった……。


「それは、その、なんていうか……」


「おい」


口から泡でも吹かんばかりの私から顔を背け、苦賀が蜜田さんへと向き直る。


「お前、なに言ってるか分かってんの?」


低く凄みのあるトーンに、こちらのほうが思わずヒッとなった。


「別に、《《苦賀君》》には関係ないから」


しかし、視線もあわせずに蜜田さんは淡々と答える。


なんだか、めっちゃくちゃヤバい雰囲気。


「はあ? 関係なくねぇし」

「そもそも、僕が三輪さんのこと誘おうとしてたんだけど」

「こいつはすでに俺が誘ってんだよ」

「彼女に先に出会ったのは僕だし」


遂には、向かい合っての言い争いが始まってしまった。


私を取り合ってイケメン2人がケンカ……。


なんて少女漫画のシチュエーションのようだが、実際に目の前で起こるとウットリなんてしてられない。


普通にトラブルである。


「いやいやいや」


慌てて私はテーブルのカップを避難させて、2人の間に割って入った。


「こ、こんな所で騒ぐのはちょっとまずいですしー」


作り笑いを張りつけて仲裁ちゅうさいしてみるが、もう彼等は私のことなど見ていなかった。


「大体、いつもそう。全部一人で決めて」

「俺の決定に文句があんのかよ」


話がそうなってしまうと、もう私などにはどうにも出来ない。


2人のいさかいはどんどんヒートアップして、その場は解散となってしまった。



 「はあ」


逃げるようにビタハニの2人を残してレストランから脱出した私は、その帰り道で深いため息をついた。


何だか、とんでもないことに巻き込まれてしまった気がする……。


夕焼けの歩道橋を歩きながらスマホを手に取ると、メッセージが2件入っていた。


苦賀 綾真から、『また連絡する。俺を選べよ』。


蜜田 巡から、『今日はごめんなさい。でも、言ったことは本当だから』。


……………。


ああああぁああああー-!!


夕陽に向かって、私は(心の中で)叫んだ。


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