ルシウスの雷名9
何も無い空間から急にトーチが出現する。
それはゆっくりと聖火に向かって落下をはじめる。
議長席左隣に燃え盛る聖火は無防備な状態だったのだ。
この落下を止める者は誰もいない。
カルタス
「そこにいるんだろ?クロノス!!」
全ての荷物を手放して、聖火が燃え盛る上空を指差し駆け寄る。
心から叫ぶ。
クロノス
「やっぱりバレた?これで準備は整った!さぁ、祭りの開始だよ。」
嬉しそうに透明マントを取って姿を見せる。
勝ちを確信した笑みで周囲を見渡す。
全員の目線が落下する魔火に集中する。
ギル
「これが狙いだったのか?」
咄嗟にトーチを弾くために神術を唱えようとする。
ルーカル
「やらさないよ?」
一瞬緩んだ腕から逃げて、顎に掌底を喰らわせる。
ギル
「くっ。」
少し血が飛び散る。
咄嗟に顔を逸らしたが、回避しきれなかった。
同時に無詠唱の神弾を親指から弾き出す。
ルーカル
「甘いねー。撃たせる訳がないじゃないか。」
ギルの手を叩いて方向をずらす。
小さな毛の先程の神弾だったが、後方の議席を複数、一気に吹き飛ばす。
「危ない、危ない。ダメですよ?こんな危険な物、ここ公共施設なんだから。」
余裕ある様子でギルの動きを封じる。
ギル
「くそっ。選択ミスったか?」
内心、ルーカルの動きさえ封じていればなんとかなると余裕を見ていた。
それが、今、仇となっている。
弾かれた反動を利用して一回転、身体を捻って次は両手を使って二発神弾を親指に溜めて弾き出す。
それと同時に、
神術。
『時空、停止、1秒。』
発動、瞬間停止。
1秒、1秒だけ時間を止める。
ルーカルの動きを止めて、確実にトーチを撃ち抜く。
ルーカル
「あっ!!」
瞬きの瞬間、やられた顔で後ろを振り向くが直ぐに顔を戻す。
「なーんてね。」
ニコッとギルの目を見る。
時の魔王クロノス
「いくら格上でも、私これは負ける気がしないな。」
魔術。
『誓いの砂時計、時を遡れ、1秒。』
発動、魔法使いの時間。
クロノスの固有魔術、誓いの砂時計は如何なる時空帯の術を上書きしてしまう魔術なのだ。
ギルの時空の固定を簡単に解除してしまう。
ついでにこっち飛んでくる神弾を素手で弾く。
ギル
「チッ、全く鬱陶しいな。」
クロノスが簡単に弾の軌道を逸らされて外れる様子を見てイラつく。
トーチが聖火に包まれて落ちていく様を見つめるしか無かった。
ルーカル
「どう?負けるってどんな気持ち?」
勝ちを確信した顔で汚れたフードを叩いてちりを払う。
カルタス
「ワン。雷鳴を鳴らせ!」
誰もいない空席の議長席に向かって叫ぶ。
カルタスが置き去った七色に光るフードが地面から消えていたのだ。