悪意ある善意1
~ネフタニア議事堂~
カルタス
「やめろよ。落ち着けって、お前が感情的になるなよ。」
手から血が滴る。
ギルが刃を同族に向けていたのだ。
それを右手で制止する。
真っ赤な血がポタポタと地面へと落ちていた。
ギル
「止めるなよ。」
目が血走っていた。
自分でも頭に血が上っているのは自覚していたが、抑えきれなかったのだ。
急に表れた滅びの燈火が消えた後、こちらでも大きな問題が発生していたのだ。
子供達が反逆者達によって虐殺されたのだ。
黒のフードを被った燈火のメンバー1
「ハハハハ、族長もそんな顔するんですね。もっと早くやれば良かった。」
彼のフードは返り血で真っ赤に染まっていたのだ。
この血の量が惨劇の重さを物語っていた。
愉快な笑いが議事堂に木霊する。
ギル
「何故だよ。何故こんな事が出来るんだ。お前たちは。」
ワンから受け取った情報を基に議事堂周辺の警備レベルを最大限引き上げていた事が裏目に出たのだ。
他の設備への警備が手薄になってしまっていたのだ。
「何故?何故?」
怒りで頭がいっぱいになる。
刃から手を離すと拳を黒のフードを被った人物へと何度も何度も振り下ろす。
フードが付外れて素顔が露わになる。
そして、教師の証である氷の首の飾りがきらりと光る。
顔が充血して真っ青になっているが、誰もがこの人物を知っていた。
「ハートン。」
獣神族氷河虎類のハートン。
北大陸でも随一の名門校アイスで主任教師を務めていた凄腕の神族なのだ。
ハートン
「何故?そんなくだらない質問するなよ。」
充血した口から血をギルに吐き出す。
「殺したいから。ただそれだけだよ。」
殺しに夢中になり過ぎて錠剤を服用し損ねた結果、今ここにいる。
仲間であるもう一人は無事に転移出来たのだ。
ただ、それでも後悔はしていなかった。
黒のローブに刻まれたエンブレムに手を置く。
胸のあたりに向かい合う乙女に挟まれた紫色の炎が灯った蝋燭が描かれている。
「はぁ、お前に見せたかったよ。アイツらの声。最高だったぜ?」
血が喉に入って苦しそうにむせる。
ギル
「もう、しゃべるな。」
ハートンに馬乗りとなり、全力の拳を振り下ろそうとするが、ワンとカルタス二人に羽交い絞めにされる。
「止めるなよ。お前、悔しくないのかよ。お前の子供が、カルマンが殺されたんだぞ?カルタス。」
大粒の涙がギルの頬を伝う。
カルマンの死因は、ギルの子供であるギースを庇って死んだらしい。
彼が殺される瞬間に空間移動のポータルを咄嗟に作って逃がしたのだ。
それ話を聞いた瞬間、ギルの中で何かが壊れたのだ。
悔しくて悔しくて仕方ない。
親友の息子の死はそれだけ彼の心を壊すには十分な理由だったのだ。
カルタス
「あまり、自分を攻めるな。お前の判断は何も間違って無いし、俺の息子も同じだよ。こうしてお前の息子は生きているんだから。」
カルタス自身も胸が張り裂ける程悲しかったが、息子が立派に役目を果たした以上、父親として、次は自分が責任を果たせねばならにと心に誓ったのだ。
「こいつらの目標は、間違えなくお前の息子だったんだから、やつらは失敗したんだよ。その八つ当たりでこの悲劇が起きてしまったんだよ。だから、これ以上、怒りに身を任せるなよ。お前にはお前にしか出来ない事があるだろ?」
ギルをハートンから引き剝がす。
そう、こいつらは失敗したのだ。
拘束具で固定された状態でも不敵な笑みを浮かべるハートンを睨みつける。
「勝ち誇った顔しているが、どうせ、お前。殺気を隠し切れずに失敗したんだろ?」
本当に完璧に計画を実行していたら、ギースは即死していた筈なのだ。
恐らく、感情を隠し切れなかったのだろう、敵の失敗の原因をつく。
ハートン
「はっ?」
確かに失敗した原因は自分からきている。
あまりにも図星を突かれたので、少し苛つく。
そう、途中までは完璧だったのだ。
奴のガキさえいなかったら成功していたのだ。
あの場面を思い返すだけで、殺意がフツフツと沸き立つ。
「ふっ。雑魚すぎて。お前の息子、瞬殺だったよ?」
最大限の屈辱を与えてやろうと言葉の刃を突き立てる。
「俺は、、善意でやったんだ。この悪意は善意なんだよ。お前らは何も知らないから、俺たちの善意が解らないんだ。感謝しろよ?カルタス。暗部で気取り屋の。。」
カルタス
最後の台詞を言わせる選択肢を彼は取らなかった。
ギルから奪ったナイフでハートンの脹脛を深く突き刺す。
「解りたくもないね。お前は何故生かされているか?その意味をもっと深く考えろよ?死なせないから。お前に与えられた権利は、のたうち回る中で死を懇願する事だけなのだから。」
勢いよくナイフを抜き取るとハートンは叫ぶ。
「こいつを連行しろ。この件は暗部が引き受ける。彼を封神の間へ連行しろ。」




