ルシウスの雷鳴
ルシウスの夜空に雷鳴が鳴り響く夜。
漆黒の闇を光が切り裂く。
轟音轟く、幾千、幾万と闇の中を光が駆け抜ける。
その雷鳴が照らす、島の端、崖の上に立つ、2人の影。
エヴァン・カルタス
「本当に行くのか?お前、死ぬぞ?」
彼の耳元で叫ぶ、叫ばないと雷鳴に声が掻き消されるのだ。
エヴァン・ワン
「あぁ。行くよ。いや、お前が一番危険だろ?」
こっちも負けじと叫ぶ。
目線を崖の下にやる。
カルタス
「そうか、そこまで覚悟しているなら。止めないよ。じゃあ、託すよ。」
カルタスはポケットから真っ青な炎を取り出す。
不思議な種火を彼に授ける。
ワン
「いや、此方こそすまん。迷惑をかける。これが、そうなのか?」
雨に打たれても消えない種火をギュッと握り込む。
不思議な暖かさが拳の中に広がる。
カルタス
「あぁ、そうだよ。これが、それだよ。」
泣きそうな顔でワンの頬っぺたに触れる。
背後から薄らと火が灯る。
不審者達
「いたぞ!!殺せ!!あと少しなんだ。あれさえ、あれば、あれさえあれば。」
「くそが、俺たちのモノを返せ!!」
複数人が黒いにマントを靡かせながら物凄いスピードで近寄ってくる。
怒号が大地を揺らす。
ワン
「弟よ。すまんな。最後まで迷惑をかける。」
ワンは崖から飛び降りる。
【20年前】
黒尽くめの男
「これだから、神族様はダメなんですよ!そんなプライドなんか捨てて、やっちゃいましょうよ。」
計画書を大きな机に広げて、複数人達の影が交差する。
白尽くめの男
「お前たちはガサツなんだよ。前回もお前らがヘマして失敗したじゃやないか。」
地図と横並びにした計画書に、次々と意見を書き込む。
鼠色のフードを被った男
「俺からしたら、神族はビビりで魔族はせっかちなんですよ。もっとかっこよくやりましょうよ。次は失敗出来ませんからね?」
地図のとあるポイントに大きな丸を書く。
黒尽くめ
「半端者のお前が偉そうに言うなよ。」
鼠色のフードを無理矢理剥ぎ取る。
鼠色
「やめろよ!!殺すぞ?」
フードが外れると右半分が黒く、左半分が白い不気味な男の姿が現れる。
目も髪色と一緒で右と左で色が異なるオッドアイであった。
決して美しいとは言えない不気味な顔がランプに照らされる。
すぐにフードを被り直す。
白尽くめ
「それより、間違え無いんだな?ここで!ここが、魔火の原初の種火が見つかった場所で。」
黒尽くめを睨みつける。
黒尽くめ
「あぁ、間違えないよ。ネズと一緒に確認した。真っ黒な魔火だった。」
鼠色が付けた赤い印を指す。
鼠色フードのネズ
「ただ、警備がかなり厳重だわ。見張も重鎮クラスしかいなかった。俺がぱっと見ただけでさ。魔神クラスは44と魔帝クラスが101と264。厳戒態勢よ。」
悩んだ顔になる。
白尽くめ
「てか、そもそもさ?魔帝以上にならないと教えてくれない神聖な場所なんだろ?」
警備が固いのは当たり前だろ!と言いたげな口調になる。
ネズ
「そりゃ、そうだけとさ。何人もいるなんて思って無かったのよ。」
弁明する。
黒尽くめ
「人数が多かろうが関係無いだろ?俺らにはこれがあるじゃないか。」
カバンから七色に光るマントを掴んで出して机の上に置く。
白尽くめ
「確かに、関係無いよな。これは、本当に奇跡のマントだよ。タルルカ糸に神気と魔気をある法則で循環させる事で無になれるなんて。」
白いフードの上から七色マントを羽織ると直様、皆んなの前から姿を消す。
ネズ
「ここで、羽織るなよ。どこにいるかわからないだろ?ただ、使用する条件が難しいのが難点だよな。神気と魔気を使える事が条件だなんてさ。ちょっとでも間違えばさ、ほら?」
一瞬、七色に光った場所に手を伸ばす。
白尽くめ
「くそっ!!上手くいけたと思ったのに。」
ネズにマントを剥ぎ取られる。
両手には、真っ白な球と真っ黒な球がそれぞれ一つずつ握られていた。
黒尽くめ
「いやっ!間違えなく、お前が一番使えてるよ。隠れてる前提で神経を張らないと、今のですら気が付かんで?」
黒尽くめは白尽くめを褒める。
自分では取り扱える代物では無かったのだ。
動かないであれば、隠れれる。
しかし、動きながら魔気も神気も巡らせる余裕なんて不可能だった。
ネズ
「それは、そうだよな。俺は生まれつきさ。どっちも扱えるけど、お前みたいに繊細な循環はまだ無理だわ。あと一年は必要、使いこなすのにね!」
頷く。
白尽くめ
「じゃあ、計画の実行は3年後、ここにマントを羽織って集合でいいか?」
白尽くめは再びマントを被って姿を消す。
黒尽くめ
「あっ!クソが!!あいつ、返事聞く前に消えやがった。3年ぽっちで使えるわけが無いだろ?馬鹿なのか?ネズはそれで良いのか?」
消えた白を呼び止めようとしたがすでに手遅れだった。
七色とかなり目立つマントを鞄にしまい直してネズに問う。
ネズ
「俺らの事見下してる、神族様が俺らと歩調合わせる訳がないじゃないか。俺か?勿論余裕。」
ネズもマントを被って綺麗に立ち去る。
黒尽くめ
「あぁー、そうですか。私だけですか、使えないの。不器用で申し訳ありませんね。お前らみたいに、華麗に立ち去れないから私はこのままで、帰りますよ。」
誰もいない洞窟の中で叫ぶ。
出口まで聞こえるように大きく叫ぶのであった。
白尽くめ
「うるさい。黙れ。また、3年後!!滅びの燈に祝福を。」
上部だけ脱いで、右手で思っ切り黒の頭を叩く。
黒尽くめ
「なんや?まだおったんか。っておい。滅びの燈に祝福を。」
頭を摩る。
必ず使える様になってやると固く誓った瞬間であった。
そして、洞窟を出ると美しいルシウスの夜景が広がっていた。
黒尽くめ
「はぁ、つまらない色だな。」
愚痴を溢しながら、夜の森へと姿を消す。