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学校での出来事 その2

久しぶりだ!

ふと時計に目をやると、もう授業が終わろうとしていた

早いものだ


そして、ノートに目をやると、もう彼女と5000回以上は会話している

早いものだ


ノート上の彼女とは、今のところうまくできている

思いつく限りの会話分岐を試してみたが、うん、全てに対応している


いや、もう少しやっておこう

ええと、

いま彼女とアメリカへ亡命しようとしていて...


終業チャイムは思ったよりもすぐになった

号令がかかり、放課後となる

結局6000にしか増えなかった


もう少し増やしておきたかったが、無理だ

決戦の時なのだ

ここで逃げてしまうことも考えたが、やめた

こうなってしまっては逃げようもない、そうだろう?


「ねぇ」


きた、彼女だ

だが、今は気づかないふりをしておく

まだ教室には人が多い

彼女をいったん人気のないところへひきつけておきたい


案の定、彼女はついてきた

そのまま愛想をつかして帰ってくれればいいのに、と心の片隅で文句を吐く


だが、彼女は結局ついてきて、僕たちは図書館にたどり着いた


準備はある程度できている

そして、ここは実質僕のフィールドだ


コンディションとしては有利だ

あとは運と彼女次第だが...


「ねぇ、聞いてる?」


「あぁ、ごめん」

「気付かなかったよ」


僕は不敵に笑って見せる

彼女はその不気味な笑みを見てひるんだようだ

さぁ、どこからでもかかってこい


「その...ええと...あ、なんか今日、授業ちゃんと聞いてたよね

 ノートも真面目にとってたし

 君にしては珍しい...というと君に悪いけど...」


甘いな、それは会話0121で検証済みだ

「別に、授業を聞いてたわけじゃないよ

 LED ZEPPELINの歌詞を和訳していただけ」


「あ、Led Zeppelin!

 あなたも好きなの?」


「うん、いいよね

 ザ・ロックって感じで」


「うんうん、私も好きなの!

 よかったらさ、和訳見せてよ」


安心してください、書いてますよ


ちゃんと訳せているかは分からないが、そこはどうとでもなる

ノートを広げ、自分の拙い英語力を見せつけた


「なかなかね」


そのベクトルの向きは分からなかった

けれど、どちらの意味だとしても対応できたし、その発言自体はあまり重要ではなかったらしい


その後は、歌詞についての問答で済んだ

特に難しいことは聞かれなかった

ただ、僕との会話を楽しんでいる、というと変かもしれないが

そんな感じだった


それから少しの間、防衛を続けていると


「あ、もうこんな時間だ

 そろそろ帰る」


と撤退の宣言が下った


長いようで短かった

防戦一方だったからだろうか


「あなたも結構喋れるのね」


割と滑らかだったらしい

台本通りに喋ったからだろうか

確かに、こういう作業なら得意かもしれない


そう、それと最後に追撃を加えなければ


「じゃあ、そろそろ帰るから...」


「あの、ちょっといいかい?」


「?」


「なぜ僕と話なんか?」


これは聞いておかねばならない


「なぜって、あなたとは話をしたかったから...」


「僕の話術の才能に気づくとは、やるね」


「はは、まあその、本当に話がしたかっただけなの」


これ以上つくと危ないだろうか?


「ああ、別に嫌だったわけではないんだ

 ただ、気になっているだけ」


「うーん、実はよく分かっていないの

 強いて挙げるとすると...」


彼女は右手で頬を撫でて、少し微笑んんだ


「あなたに興味があっただけ

 興味があるっていうのは、あなたの歪み度っていうのかな

 つまり、人間として、どういう理論・信念を持ってるか知りたかったの」


ここまで聞いて、僕は思わず


「変わってるね」


と口に出してしまった


まずいな、聞かれてたらまずい

僕は今、思ったことを即座に口に出すことでコミュ障を補っている

それが裏目に出た


「そうね、変わっているわね」


彼女は驚いたようだ


「何でこんなこと言っちゃったんだろ」


自分の発言に驚いているようだ

そのことに僕も驚く


「こんなこと普通は言わないんだけどね」


「友達にも?」


「ええ、まあ」


「友達はたくさんいるんだろ?

 一人も?」


おっと、もう少し冷静にならないと

というか、人に対して興味を持ったのは久しぶりだな、僕


「遠回しに言ったり、ぼかして言ったりしたことはあるわ

 けどストレートに言ったのはあなたが初めてかも」

「というか、友達多いの知ってたの?」


「まあ、さすがに」

「鎖国しても、オランダ風説書は書かせていただろ?」


何言ってるんだ、僕

何とかしてペースを戻さないと


「あなたという人間はよく分からないわ

 人が嫌いって訳でもないのに、人と関わらないし」

「勇気がないのか、それとも人を見下しているのか

 ...いや、絶対違うわよね」


もういっそ、自分のありのままを晒そうか

いや、晒すといっても、何を晒せばいいか分からないし

何より恥ずかしい

ここは、彼女の本音を探るべきか


「あのさ、軽蔑する?」


「?」


「人と話さないこと」


「何で?」


「...いや、忘れてくれ」


事態がどんどん悪くなっている気がする


「ダメ、忘れない」

「何で軽蔑すると思ったの?」


「人の輪に入らないのは、その、軽蔑されることがあるじゃないか」


「つまり、傷つくことを恐れてるっていうこと」


「うん」


「...少なくとも、私はあなたを傷つけるような真似はしないわ」

「さて、あなたがわかってきたかもしれない」

「もっと話してみて

 人生一番の後悔とか、最近あった許せないこととか...」


ペースはもう元には戻せないだろう

こうなったら、一筋の希望にかけて反撃するしかあるまい

反撃がうまくいくのが先か、こちらの気力が尽きるのが先か


「待って、僕も聞かせて」


「私のこと、興味があるの?」


「すごく興味があるよ

 僕に話しかけてくる時点で、相当だろ?」


「つまり、『相当』な人に興味があるってこと?」


「...ああ、人並みには」


「分かった

 それで、何が知りたい?」


そうだな...

彼女は何処まで許すだろうか


「君が、そういう性格になったきっかけは?」


「『そういう』というと、人の性格を根掘り葉掘り聞きだそうとする、この悪い癖?」


「別に悪いものだとは思っていないけど、うん、そう」


「そうね...

 人って、誰でもうわさ話が好きじゃない?

 私はそれをこじらせたの」

「小学校の頃、人のうわさ話をかき集めるのにはまったの

 かき集めた情報は、クラスのみんなに重宝されたわ

 そういうのが好きな年頃だったからね」


よく見ると、彼女は恥ずかしそうな顔をしていた

いや、よく見なくてもそうだった


...これ以上は何もないだろう、たぶん

話題を変えるか


「じゃあ、なぜ僕に声を掛けたのか、これを教えて」


「さっきから思ったんだけど、君、結構ストレートに来るね」


余裕がないからね


「ごめん、質問にこたえる

 さっきも言ったけど、君が面白そうに感じたの

 実際面白いし」


「ほんとに?」


「ここに関して嘘つく理由ないわ

 もっと自分に自信を持つべき」


「あ、いや、面白そうに感じたってところ」


「ああ、そこね...」

「なんか、やけに堂々としているように見えたの」


「え?」


「並々ならぬオーラがそこにあったの」


「は?」


「そのオーラに見せられたって感じね」


...これ以上は成果が出なさそうだ


反撃はここで止まった

決死の覚悟でやった割にはそこまで成果はないのが悔しい


さて、あとはジリ貧状態のまま防衛を続けなければならないのだが


「じゃあ、私からも」

「うん、なんか、君のこと分かってきたかも

 あとちょっとって感じがする」


おっと、反撃の効果はあったようだ

一筋の希望は確かに見えてきた

ただ、そこまでたどり着けるのか


「じゃあ、これで最後ね

 本は何のために存在する?」


「ええと、著者と対話するため」


そういうと、彼女は急に笑い出した


そして、机に突っ伏して、


「あーなるほどー

 結構単純じゃん」


とつぶやいた


どうやら、終わったらしい


全身を縛っていた縄が解かれて、椅子から崩れ落ちそうになった


大きなため息をつく

やっと終わった


ようやく頭が回ってきた

頭の中で回想が始まる


あれ、そういえば用事があるとか言ってた気が...


「君なんかガード固いし、不気味だったからすぐ帰ろうと思ったけど、やっぱ話せてよかったー」


用事なんて無かったみたいだ


「僕も話せてよかったよ」


「え、なんて?」


ああ、疲れすぎて声が出ない

けどなぜか、彼女ともっと話したいと思った


声を振り絞ってみる


「付き合ってくれてありがとう」


「いや、こっちのセリフだよ」


「僕について、どんなことが分かったの?」


「それはね、内緒」


「そう」


「あ、そうだ、大事なこと聞き忘れてた」


「なに?」


「やっぱり、本って面白いものなの?」


「ああ、うん」


「なんで?」


「知識が手に入るからかな」


「でも、本で知識を得すぎることは悪いことだ、って言ってた人いなかったっけ?」


「ショーペンハウアー?」


「そんな感じだったかも」


「それは人生のほとんどを本に費やした人の言葉だよ

 僕はたかが数十年しか読書してない

 まだ読みすぎには入らない」


「まじか...」


「本、読むの?」


「週に1冊ぐらい、これって読みすぎ?」


「はは」

「そうだね、試しに週に2冊読んでみるといい

 それで、次は3冊、4冊と増やしていく

 続けていけば読みすぎになるね」


「ふーん」

「不断の努力ってやつだね」


「そうだね」


「なんかありがとう、2時間も」


もうそんなに経つのか


「じゃあ、また明日ね」


「うん、また明日...」


最後の方はもううまく言えなかった


僕は残された気力で何とか立ち上がると、ふらふらと歩きだした


彼女とは逆方向だったので、一緒に帰ろう、とはならなかった


もし同じだったとしても、お互い話すことがなかったし、何より僕の気力が持たなかっただろうから、一緒に帰ることはなかったと思う

たぶん...


それにしても、人とこんなに話したことが信じられなかった

女性として、彼女を好きになったのだろうか


いや、違うな


彼女をそういう風に見ているのなら、彼女の顔が真っ先に思い浮かぶはずだ

だが、実際に思い浮かぶのは図書室の隅の、図鑑に囲まれた、小さなスペースだった


だから、彼女には別の念を抱いているんだ、たぶん


そういえば、本を読むことを進めたよな

もし彼女がそれを真面目に実行するとしたら?

明日、僕があの場所にいつものようにやってくいると、そこに彼女がいる


そうだとしたら、それはー


その時、僕は突っ込んでくるトラックに、全く気付かなかった

やっと現世とサヨナラできた...


てか、この主人公こじらせすぎだろ

この先やってけんのか?

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