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魔法少女の最期

作者: 雉白書屋

『おし、おしまいだぁ……』

『あは、あはあへへへへへ』

『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ』

『世界が終わった』

『もういっそ自分で死にます』

『誰か助けて……』

『彼女がそんな……』

『へぇ、マジ? へへ、へへへ』

『チャン……アヤチャン……』

『ありぃえなぁいぃ』

『終わった、何もかも終わった』

『あば、ゲホッ! ゴホォォ!』

『苦しい……』



 人々の苦しむ声がする。跳梁跋扈。卑しき悪が蔓延るこの現世。たった一人で戦う少女がいた。

 彼女は魔法少女。ふわりとピンク色のスカートを靡かせ空を飛び、魔法のステッキを振り回し悪を討つ。その背中に見える天使の羽は目の錯覚か否か。彼女はまさにヒーロー。正義の象徴。大衆の味方……これまでは。

 芸能事務所に所属し、CM、番組出演、グッズ販売など手広く活動し、多くのファンを獲得していた彼女であったが、ついに魔の手が彼女を捕らえたのである。


『ははは、アヤッチに限って恋とかないっしょ……ナイッショ……』


 魔法少女サアヤの恋愛スキャンダル。

 これには大勢の男性ファンがショックを受け、特に一部は阿鼻叫喚。愛は憎悪へ。ファンから一転アンチへ。愛と言っても独りよがりは否めないが、それでも愛は愛。絶望し、集めたグッズを破壊し、嗚咽嗚咽嗚咽。

 アパートに一人暮らしは隣人から壁越しに五月蠅いと怒鳴られ、実家暮らしは母親に心配され、五月蠅いと怒鳴る。

 涙と鼻水を拭い、縮こまり眠る日々。

 だが、それも長くは続かない。


 むくりと体を起こした彼らが見つめる先はテレビ、パソコン、スマートフォンに映る真っ白な部屋。

 あの週刊誌のスキャンダルが出回った日。そう、アポカリプスから二日後の今日。ついに彼女の記者会見が始まるのだ。

 そうとも。まだだ、まだ終わっていない。きっと嘘だ。写真は出回っているけどガセだ捏造だ陰謀だ。彼女を信じ、その口から出る言葉を待ち、そしてその話を信じる。ただそれだけ。人を信じることは美徳。

 彼らはそう思う。それが妄信であるなどとは微塵も思わずに。


『ありえねっし』

『サアヤの成分は半分は子供、もう半分は男だから。彼氏とかねーし』

『男とかないないない』

『まあ、別にサアヤの自由だし?』

『そもそも妹みたいな感じだし』

『よく考えたらショックとかないな』

『女子力ないよね』

『オタクだし。嫌いじゃないけど』


 と、心に僅かだが余裕ができ、強がりも言えるようになった彼らの前、テレビの向こうで彼女が姿を現した。……が。


「えー、どうも。はぁー、魔法処女の、あ、魔法少女のサアヤです。

えー、この度はお集まりいただき、ありがとうございまーす。

自分の声で、言葉で皆様に今回の騒動についてお話したいなと思い、えー、来ました。はい。えー、ぶふっ、処女って、はははっ二つの意味で間違いだし、ま、それは良いんですけど今回、私のスキャンダルが出まして、チッ、あの週刊誌が、チッ、えっとまあ、でもね、まあ普通のことですからね、恋愛とか。私も二十歳超えてますし。

え? ああ、いや、わかんないですか? 七年ですよ七年。魔法少女になってから。そりゃ見た目は十四歳でしたけど、魔法です。魔法の力。へーんしんっつってね。まあ実際には言わないですけど。ちゃちゃっとヤニ吸って唾吐いて、ほいってなもんですよ。

ええ、はい? 実際の年齢? 見てわかんないっすか? 今、変身してませんけど。

はい、あ、このジャージは私服です。ええ、彼氏から貰ったやつ。お揃いの。

え? 態度が悪い? は? は? はぁ? いや謝罪会見じゃねーしバカかよ。

恋愛して何がわりーんだよ。脳みそどーなってんだよ。事務所に言われたから仕方なくだよ。チッ。わかれよそんくらい。

あ? 相手? 地元の先輩だけど? そ、魔法少女やる前からの付き合い。まあ、くっついたり離れたりしてたけどね。うん? ああ違う違う。写真は別の人。社長さんね。そ、良い人。

まあ変身解かなかったのはこっちのミスもあるかもだけど向こうさんの希望だし、そもそも記者がさぁ、盗撮する方が悪いよね? 犯罪でしょ?

で、はい。ああ、潔く魔法少女辞めるんで。はーい。皆さん私のことなんか忘れてね、ネット叩きもほどほどに、自分の時間を大事にしてくださーい。

んん? 悪の組織? ああ、まあ本来、警察とかの仕事だからね。別にいいでしょ、もう。

スポンサーとかCMとかで辞めるに辞められなかっただけで、良い機会だからはい。辞めます。お疲れさまっした、はーい」


 カメラのフラッシュが乱れ飛ぶ中、彼女が魔法のステッキを床に置く。そして、機械的なお辞儀をし、退室。


『あれがアヤッチ……? 嘘だ……』

『中の人、ただの中の人だから、関係ない、関係ないよ……』

『胸が苦しい』

『最後退室する時、横に男いなかった?』

『あれ誰?』

『もう嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ』

『あれ? 誰あの子』


「はーい! みなさんこんにちはー! 私、後任の魔法少女、ユイナでーす!

十三歳、血液型O型でーす! みなさんの平和は私が守ります! 応援よろしくねー!」


『うおおおおおお!』

『へー、いいじゃん』

『ほい、ゴリラのおじちゃんがお小遣いあげるよーっと』

『大好きです直球ね』

『かわいい』

『おゆい』

『ユーナ』

『応援するよおおお!』

『愛嬌の帝王』

『カワイイ』

『変身前は? 動きがサアヤに似てない?』

『ありがとう……ありがとう……』

『スパチャ置いておきますね』

『おねえたまーたまたまー』

『でびゅーしたてだからって無理しないんだよ? 危ないときは逃げていいからね』

『オレマモルユイナ』

『王』

『主よ』

『かわいいしか言えない』

『お姫様女神様ユイナ様』

『平和の象徴』


 世界は今日も変わらず、それなりに平和である。

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