私の隣には、もう………あなたは居ない……… 後編
「直ぐに、
仕上げるから、
あんたは、
洗面所で、
手洗いと
嗽をしておいで」
私を
家の中に
招き入れた後、
千鶴は………。
洗面所で、
手洗いと
嗽をする様にと
声を掛けてきた。
「はーい。
お母さん………」
まるで、
母親の様な事を
口にした、
千鶴に対して、
私は、軽口で
返事を返した。
「誰が、
お母さんか!!」
私の
軽口に対して、
千鶴は、
ムスッとした感じで、
返事をすると………。
一足先に
キッチンの方へに
向かって
歩いて行った。
千鶴を
見送った後、
私は………。
千鶴に、
言われた通り、
洗面所に
向かうと、
手洗いと
嗽を始めた。
「手洗いと、
嗽を済ませて
きたよー」
洗面所で、
手洗いと、
嗽を済ませた、
私は………。
リビングに
移動すると、
キッチンに居る、
千鶴に向かって、
手洗いと嗽を
済ませたと、
報告した。
「もう
ちょっとで、
料理が
出来上がるから、
適当に
寛いでて………」
キッチンで、
作業をしている、
千鶴から、
料理が
出来上がる
までの間、
適当に
寛いでいる様にと
返事が返ってきた。
「はーい」
千鶴に
返事をした後、
私は………。
リビングに
設置されている、
ソファーに
向かって、
移動した。
すると………。
「おや………?
これは、
珍しい、
お客様が
来られましたね?」
ソファーに
向かうと、
直ぐに………。
その様な声が
聞こえて来た。
声の聞こえてきた方へ
視線を向けてみると………。
TVの前に
設置されている、
大きなソファーに
座っている、
1人の男性の姿が
目に映った。
ソファーに
座っていたのは、
この家の
大黒柱でもあり、
数年前に、
千鶴と
結婚をした、
天河彰人さん、
その人だった。
「あっ………。
彰人さん。
お久しぶりです」
ソファーに
座っている、
彰人さんに
向かって、私は、
お久しぶりですと
返事をした。
「はい………。
お久しぶりです」
私の
返事を耳にした、
彰人さんは、
朗らかな笑みを
浮かべると………。
私と同じ様に、
お久しぶりですと
返事を返してくれた。
「千鶴さんが、
慌てて、
玄関に
向かわれたので、
何事かと
思ったの
ですが………。
雨宮さんが
来られていたの
ですね………」
私に
返事を
返した後、
彰人さんは、
急に、
千鶴が、
玄関に
向かって、
走り出したから、
驚いたと
口にしたの
ですが………。
声の
調子から、
本当に
驚いていたのか、
疑問だった。
「急に、
お邪魔してしまって、
すみません………。」
とは言え………。
元を正せば、
連絡も無しに、
急にやって来た、
私が悪いのは
言うまでも無い。
なので、
私は………。
急に
訪れてしまい、
すみませんでしたと
謝罪の言葉を口にした。
「いえいえ。
偶には、
賑やかなのも
楽しいですからね。
なので、
雨宮さんも、
そんなに、
気にしないで
下さいね」
私が
口にした
謝罪に対して、
彰人さんは、
気にしないで
下さいと
言葉を
返しくれた。
「それは、
そうと………。
今日は、
どうかされたの
ですか?」
私に
言葉を返した後、
彰人さんは、
急な訪問に付いて、
どうしたのかと
質問をした。
「実は………。
仕事の都合で、
東日本を中心に、
北陸方面を
転々としていたの
ですが………。
また、
此方の方に
帰ってくる事に
なったので、
挨拶も兼ねて、
訪問させて
頂きました」
ソファの方へ
近付きながら、
私は………。
本日、
千鶴の元へ
訪れた
理由に付いて
説明をした。
「成程………。
私が
言うのも
可笑しな話
ですが………。
お仕事、
お疲れ様でした」
一様、
納得をして
くれたのか、
彰人さんから
労いの言葉を頂いた。
「いえ………。
有り難う
ございます」
連絡も無しに、
訪れたにも関わず、
労ってくれた、
彰人さんの
気持ちが
嬉しかった、
私は………。
素直に、
お礼の言葉を
口にした。
「あっ………。
立ち話も
何なので、
良ければ、
そちらに
お掛け下さい」
私が、
立ったまま
だったのが
気になったのか………。
空いている、
ソファーに
座る様に
奨めてくれた。
「有り難う
ございます。
それでは、
失礼しますね………」
私としては、
立ったままでも、
特に気には、
ならなかった
けど………。
それでは、
彰人さんに
気を遣わせる
だけだと、
考えた、
私は………。
彰人さんが
奨めてくれた、
ソファーに
腰掛ける事にした。
そんな風に………。
私と、
彰人さんが、
話をして
いると………。
「ねぇ……。
パパ?
この人、
だれー?」
私が、
ソファーに
座った、
タイミングで、
彰人さんの
横に座っている、
人物から、
その様な
言葉が
発せられた。
「えーっと………?」
声のした方へ
視線を向けて
みると………。
まるで、
コアラの様に、
彰人さんの右腕に
しがみついている、
小さな女の子の姿が
目に映った。
「(あの子は、
確か………
真子ちゃん。
だった
かな………?)」
以前、
千鶴から
貰った
連絡の中に
子供の
名前が
記載されて
いたの
ですが………
私の記憶が
確かなら、
子供の名前は、
天河真子ちゃんと
記載されていた
筈だった。
「こーら………。
真琴さん………。
お客様が来たら
何と言うのか、
教えましたよね?」
記憶の中にある、
子供の名前を
思い出して
いると………。
彰人さんが、
真子ちゃんに
向かって
注意をする
声が聞こえて来た。
口調は、
凄く丁寧なの
ですが………。
何処か、
有無を言わせない
迫力があった。
「(この辺りは、
似たもの夫婦
ですよね………?)」
先程の、
千鶴もそう
だったけど………。
普段は、
温厚な性格
なのだけど………。
怒っている時は、
有無を言わさない
雰囲気があった。
「(だったら、
怒らせるなって
話なんです
けどね………)」
千鶴も、
怒りたくて、
怒っている
訳では無い
筈なの
ですが………。
それでも、
心配の方が
先立つのか………。
私が、
何かを
やらかした時は、
本気で怒って
くれていた。
「(まぁ………。
その関係が、
心地良かったから
なのか………。
良く、
無茶な事を
していましたね………)」
決して………。
実の家族と
仲が悪いとか、
そう言う訳では
ないのですが………。
実の
家族よりも、
私の事を
心配してくれる、
千鶴の事が
好きだった。
「(そんな
千鶴も、
今では、
人妻です
からね………)」
学生の頃は、
千鶴との関係が、
何時までも
続く物だと
思っていたん
ですが………。
数年前の、
ある日………。
千鶴から
好きな人が
出来たのだと
告げられた。
千鶴から、
好きな人が
出来たと、
話を聞いた時は、
本気で、
千鶴の恋を
応援しようと
心の中で誓った。
そして………。
色々と、
羽陽曲折は
あった物の………。
念願が
叶って………。
千鶴は、
思い人である、
彰人さんと
添い遂げる事と
なった。
結婚式に
参加した時は、
心の底から、
おめでとうと………。
祝福の言葉を、
千鶴に贈った。
だけど………。
結婚式も
終わりを迎え、
千鶴と別れの
挨拶を交わした、
その時………。
何時も、
私の隣に
居てくれた、
千鶴は、
もう………。
私の隣には、
居ないのだと、
理解をした。
私の隣に、
千鶴が居ない………。
文字で表すと、
それだけの事なの
ですが………。
胸の
真ん中辺りに、
ポッカリと
穴が開いたとでも
言うのか………。
今まで、
感じた事の
無い程の、
喪失感や、
虚無感が、
襲い掛かって
来た。
「ごめんなさい………」
あの時の事を
思い返していると………。
涙声で、
ごめんなさいと
口にする、
真子ちゃんの
声が聞こえて来た。
「はい………。
それでは、
お客様に、
ちゃんと、
ご挨拶を
しましょうね?」
お怒りの表情から
一転………。
彰人さんは、
今にも
泣き出しそうな
真子ちゃんの
頭を優しく
撫で乍ら………。
私に
自己紹介を
する様にと
声を掛けた。
彰人さんから、
自己紹介を
する様にと
促された、
真子ちゃんは、
私の方へ
視線を
向けると………。
「初めまして………。
私の名前は、
天河真子です。
6歳……。
です………」
たどたどしくは、
あるけれど………。
しっかりと、
私の顔を、
見ながら、
自分の
名前と年齢を
教えてくれた。
「初めまして、
真子ちゃん。
私は、
ちづ………。
お母さんの
お友達の
雨宮優希です」
真子ちゃんの
自己紹介に
応える為に、
私は………。
自分が、
どの様な
人物なのかを
踏まえながら、
真子ちゃんに、
自己紹介をした。
「お母さんの
お友達………?」
子供に
取って、
母親の
友人と
言うのは、
興味を
引かれる
対象
みたいで………。
先程よりも、
幾分、
真子ちゃんの
表情が、
和らいだ
気がした。
「(折角だし………。
千鶴の
失敗談でも
聞かせて、
上げ様かな?)」
怒られた、
腹いせと
言う訳では
無いですが………。
私と、
真子ちゃんが、
仲良くなる為に、
此処は………。
千鶴に
犠牲になって
貰おうと
考えた、
私は………。
千鶴が
学生の頃に
遣らかした、
失敗談を
語ろうとしたの
ですが………。
「そこの、
バカ娘………。
何か
良からぬ事を
企んでは
いないで
しょうね?」
何時の間に、
私の背後に
遣って来た
のか………。
千鶴が、
その様な言葉を
口にしたのが
聞こえてきた。
「何も
変な事は
言っては
いないよ?」
前を
向いたまま、
私は………。
背後に居る、
千鶴に向かって、
何も変な事は
言っていないと、
弁明した。
「まぁ………。
良いは………。
あんたには、
後で、
タップリと、
話を聞かせて
貰うからね………」
不機嫌そうな
声音を出し乍ら、
千鶴は、
この場は
勘弁して
やると
口にした。
「彰人さんも………。
この
バカ娘の
相手を
してくれて
ありがとうね」
私の時とは、
打って変わって………。
彰人さんに
対して、
千鶴は………。
何処から
声を出して
いるのかと、
疑問に
感じる程の、
猫なで声を
出し乍ら、
彰人さんに
労いの言葉を
送った。
「いえいえ………。
楽しい一時を
過ごさせて
頂きましたよ」
労いの
言葉を
口にした、
千鶴に
対して、
彰人さんは、
微笑みの表情を
浮かべたまま、
楽しい一時
だったと
言葉を返した。
「それなら、
良かったは」
何処か、
楽しそうな
声音を出し乍ら、
千鶴は………。
彰人さんに、
返事を返した。
「さぁ………。
真子も、
お腹空いたでしょ?
ご飯にしましょ?」
彰人さんとの
話し合いを終えた、
千鶴は、そのまま、
真子ちゃんの元に
向かうと、
ご飯を
食べようと、
声を掛けた。
「うん!!」
千鶴に
声を掛けられた、
真子ちゃんは、
千鶴の体に
抱き着くと、
元気良く
返事を返した。
「(家族か………)」
私の
目の前で、
繰り広げ
られている、
家族の日常を
目の当たりにした事で、
本当に………。
私だけの
千鶴は、もう………。
何処にも
居ないのだと
再認識をした。
けれど………。
「こら!
そこのバカ娘!!
何を、
ボーっと
しているの!?
早くしないと、
ご飯が冷めちゃう
でしょ!!」
こうやって………。
昔の様に
私の事を
怒ってくれる、
千鶴を
見ていると………。
どれだけ、
時間の流れても、
変わらない物も
あるのだと
感じる事が
出来た。
「ごめん、
ごめん………。
直ぐ
行くよ!!」
その事を
実感する事が
出来た、
私は………。
昔の様に、
謝罪の言葉を
口にすると………。
千鶴と、
千鶴の家族が
待っている
場所に向かって、
歩んで行った。
こうして………。
数年振りに
顔を合わせた、
親友との再会は、
昔と同じ、
とまでは、
いかない
ものの………。
騒がしくも
賑やかな感じで、
幕を閉じた。