私の隣には、もう………あなたは居ない……… 前編
季節は、夏………。
世間一般では、
丁度、お盆と
呼ばれている、
その時期に………。
私、
雨宮優希は、
現在………。
日本で最も
高い山である、
富士山に来ていた。
「(さてさて………。
久しぶりですし、
早め早めで、
行動しますかね?)」
時間に
余裕を持たせた、
スケジュールを
組んだものの、
久しぶりの
登山と言う事もあって、
やや不安の方が
勝っていた。
とは言え………。
此処で
悩んでいても、
無駄に時間を
消費する
だけなのは
言うまでも無い。
駄目なら、
駄目で、
その時にまた、
考えれば
良いと
考えた、
私は………。
準備を
終えると、
富士山の
山頂を目指して、
移動を開始した。
私が、
富士山の
山頂を目指し
始めてから、
5時間程、
時間が
経過………。
大きな
トラブルに
見舞われる事も無く、
何とか順調に、
登山を続けられて
いる様に思えたの
ですが………。
実際は………。
今にも
体力が底を
尽きそうな位、
疲れ果てていた。
「(もぅ
駄目………。
限界………)」
流石に、
体力も、気力も
尽き掛けている、
今の状態では、
これ以上、
山頂を目指して
進むのは無理そう
だった。
「(予定より、
大分、ペースが、
落ちているから、
先を急ぎたいん
だけど………。
流石に、
休憩を
取らないと
体が持たないね………)」
先を
急ぎたいと言う
気持ちはある
けれど………。
無理を
してしまうと、
高山病に
掛かる可能性が
高くなる。
この先も
登り続ける為にも
高山病は
回避した方が
良いと考えた、
私は………。
少しだけ、
休憩を取る事に
決めた。
「(さて………。
休めそうな場所に
移動しますかね………)」
流石に
此処で休んだら
他の人の迷惑に
なってしまう。
休むにしても、
他の人の迷惑に
ならない場所に
向かう必要が
あう事から………。
人の
少ない場所に
向けて、
移動を開始した。
「ハァ……。
ハァ………」
他の
登山者の方の
迷惑にならない様に、
登山道から逸れた
場所まで、
移動してきた、
私は………。
肩に
背負っていた、
リュックを
地面の上に
降ろすと
勢い良く、
地面に
座り込んだ。
「(取り合えず、
水でも飲みます
かね………)」
正直な所、
余り動きたくは
無いのですが………。
一息付いたから
なのか………。
今度は、
猛烈に喉が
渇いてい来た。
喉の渇きを
癒す為に、
私は………。
リュックから
飛び出している、
ホースの端を
口に含むと………。
ストローから、
水を吸い込む
要領で、
口に咥えている、
ホースの端を
思いっきり
吸い込んだ。
すると………。
ホースを
中を伝って、
ゆっくりと、
リュックの中に
入れてある
給水タンクから、
水が運ばれてきた。
「ふぅ~………」
水を
飲んだ事で、
漸く、
人心地を
付く事が
出来た、
私は………。
溜まっていた、
疲れを吐き出すかの様に、
大きく息を吐きだした。
「(少しだけ、
肌寒いけど………。
火照った
体には
気持ちが
良いですね~)」
呼吸が
整うまで、
まったりと
過ごしつつ………。
時折、
吹き抜ける
冷たい風が
火照った
私の体を
心地良く
冷やしてくれた。
休んだ事で、
少しだけ、
体の疲れが
取れたと
思った、
次の瞬間………。
お腹の
辺りから、
小さく、
クゥゥ~っと言う
音が鳴り響いた。
「(う~ん………。
少しだけ、
お腹が空いて
きましたね………)」
動き
回っていた時は、
そこまで気には
ならなかったの
ですが………。
休憩を
挟んだ事で、
体が空腹だと
訴えてきた
みたいだった。
「(空腹だと
言われても………。
今は、
行動食位しか、
食べる物が
無いんですよね………)」
少々、
お高いですが、
山小屋に行けば、
カップラーメン等、
色々な食べ物が
売られているの
ですが………。
今直ぐに、
食べられる物と
言うと………。
一般的な、
行動食である、
チョコ位しか、
リュックの中には
入っていなかった。
「(まぁ………。
何も、
食べないよりかは、
食べ物があるだけ、
マシですかね?)」
正直な所、
チョコよりも、
今は………。
ポテト
チップスの様な
塩辛い物が
食べたいの
ですが………。
リュックの中に
入っていない以上、
食べる事は出来ない。
「(しょうがない………。
今は、
チョコでも食べて、
空腹を満たします
かね………)」
間食とかなら
兎も角………。
本格的に、
お腹が空いている、
この状態で、
チョコの様な
お菓子を食べても、
そこまで、
お腹は
満たされないの
ですが………。
それでも………。
食べないよりは、
マシだと考えた、
私は………。
持って来た、
チョコを食べる為、
リュックの中を
漁り始めた。
「(そうだ!!
若しかしたら、
千鶴なら、
何かしら、
その手の
食べ物を
持っているかも
知れないよね?)」
リュックの中を
漁りながら、
私は………。
学生時代からの
親友である、
千鶴ならば………。
何かしら、
私の欲しいと
思っている
食べ物を
持って
いるかも
知れないと
言う考えに
思い至った。
「ねぇ………。
チーちゃん?
悪いんだけど、
ポテチか、
何か………」
早速、
千鶴から、
食べ物を
分けて
貰おうとした、
私は………。
リュックから
視線を外すと………。
千鶴が
居る方へ、
視線を向け乍ら、
食べ物を
分けて欲しいと
声を掛けた。
しかし………。
視線を
向けた先には、
地平の彼方まで
続いている、
青い空が
広がっている
ばかりで………。
肝心の
千鶴の姿は、
何処にも
見当たら
なかった。
「(そう
言えば………。
今回は、
私、1人で、
富士山に
登りに
来ていたの
ですね………)」
この時になって
漸く………。
私、
一人だけで、
富士山に
登りに
来ていると
言う事を
思い出した。
何処かに
行く時や
何かを
する時は、
必ず………。
千鶴が、
私の傍に、
居てくれた。
だけど………。
今、
私の傍には、
千鶴は居ない。
「(何だか………。
急に寒くなって
きましたね………)」
千鶴が居ないと、
認識した途端………。
私の体を
突き抜けて行く、
冷たい山風とは、
また違った
肌寒さの様な物が、
私の体に
襲い掛かって来た。
余りの
寒さに耐えかねた、
私は………。
自分で、
自分の両肩を
抱きしめると………。
私の体に
襲い掛かって来た、
肌寒さの様な物が
通り過ぎるまで、
小さく身を縮めた。
「(そう言えば………。
今の時間は………)」
寒さに
耐える為に、
体を丸めていたの
ですが………。
今の時間が
気になった、
私は………。
左腕に
付けている
時計に
視線を
向けてみた。
「(そろそろ、
移動を始めた方が
良さそうですね………)」
一様、
時間的には、
まだ余裕があるん
だけど………。
そろそろ、
移動を始めないと
宿泊予定の
山小屋に
辿り着けそうに
無かった事から………。
鉛の様に
重たい体に
鞭を討つと………。
本日、
宿泊する予定の
山小屋に向けて、
移動を開始した。
「(ハァ……。
ハァ………。
やっと………。
山頂に
着きましたね………)」
あの後は、
予定していたよりも、
1時間程、遅れる形で、
宿泊予定の山小屋に
辿り着いた、私は………。
夕食を取った後、
直ぐに就寝をした。
目が覚めた後は、
手早く着替えを
済ませると………。
再び、
富士山の
山頂を目指して、
登頂を開始した。
そして………。
登頂を
開始してから、
約2時間程、
時間が経過………。
何とか、
富士山の山頂まで
登りきる事が出来た。
「(何処も、
人で一杯だな………)」
私の
見える範囲では、
あるけど………。
私よりも、
先に山頂に
辿り着いていた、
登山客で、
埋め尽くされていた。
「(何処か、
人の少ない場所は
無いですかね?)」
このままでは、
ご来光を見る事が
出来ないと考えた、
私は………。
人が、
少なそうな場所に
向かって、
移動を開始した。
「(此処は、
人が少ない
ですね………)」
移動を
始めてから、
数分程、
時間が経過………。
漸く、
少ない場所を
見付ける事が出来た。
「(う~ん………。
風除け用の
山小屋が無いので、
結構、寒いですが………。
今から、
他の場所を探す程の
時間も無いですし………。
此処で
良いですかね………?)」
今、私が
見付けた場所は、
転落防止用の
柵も無ければ、
風除けに使える、
山小屋も無い。
一歩、
間違えれば、
谷底に
転がり落ちる様な
危険な場所では
ありけど………。
日の出の
時刻を
考えると、
今から、
他の場所を
探す時間は
無かった。
「(まぁ………。
立って
ご来光を
見る訳じゃ
無いし………。
大丈夫でしょう………)」
立ったままでは、
危険だけど………。
どうせ、
ご来光を
見ている間は、
座っている
だけなので、
この場所でも、
問題は無いと
考えた、私は………。
肩に下げていた、
リュックを地面に
下ろすと………。
ご来光を
見る為の準備を
始めた。
ご来光を
見る為の準備を
始めてから
数十分程、、
時間が経過………。
そろそろ、
日の出の時間が、
近付いてきたのか………。
段々と、
周りの景色が、
明るくなり
始めていた。
「(そろそろ
日の出が
始まりますね………)」
強風が吹き荒ぶ中………。
寒さに震えながら、
太陽が昇るのを、
ジーっと待つ事、
数十分………。
遂に、
その時が
やってきた。
何処までも
広がっている
雲海の中から、
ゆっくりと、
太陽が
昇り始めて来た。
「(綺麗………)」
太陽から放たれる、
暖かな陽の光を
全身で感じ乍ら、
私は………。
自然が
織り成す、
美しい景色に
魅入っていた。
「(出来れば………。
この景色は、
千鶴と一緒に、
見たかったな………)」
心を奪われる程、
美しい景色なのは、
確かだけれど………。
何時も、
私の隣に居てくれた、
千鶴が居ない………。
ただ、
それだけで………。
この綺麗な景色も、
何故か色褪せて
見えてしまった。
「(千鶴に、
会いたいよう………)」
目の前に広がっている、
綺麗な景色を目にすれば、
目にする程………。
此処には居ない、
千鶴の事を追い求めてしまう。
そんな………。
目に見えない
何かに縋り付いているだけの
私に対しても………。
陽の光は………。
その
暖かな日差しで、
私の体を優しく
包み込んでくれた。
こうして………。
私の富士登山は、
終わりを迎えた。