【超短編】宮廷書記官リットと秘密のお菓子
「アップルシュトゥルーデルが食べたい」
よく晴れた昼下がり。執務机でリットが呟く。
「何ですか。その呪文は」
主人の仕事の手が止まる気配に、トウリが眉を寄せた。
「アップルシュトゥルーデルだよ。知らんのか?」
リットの言葉に、トウリが首を傾げる。
「知りません。見たことも、聞いたこともありません」
「簡単に言うと、林檎を生地で包んだ焼き菓子」
「アップルパイとは、違うんですか?」
「違う」
リットの翠の目が力強く光った。
「アップルシュトゥルーデルだ」
「その呪文を言いたいだけではありませんか?」
「そんなわけあるか。急に食べたくなっただけだ」
リットが手にしていた羽根ペンを置く。トウリが嘆く。
「ああああ、本格的に休憩する気ですね」
「宮廷で休憩とは、優雅なものだな」
はっはっは、とリットが笑う。席を立ち、窓辺へと移動した。窓の外には青い王旗が風に翻っている。
「と、いうわけだ。トウリ」
「……その、アップルストルーデルを持って来いと?」
「アップルシュトゥルーデル、だ」
無駄に発音良くリットが訂正する。
「厨房の人たちは、作れるのでしょうか?」
不安げなトウリに、リットはあっさりと言う。
「無理だろ。遠方の国の菓子だから」
「あんた無理難題が多すぎます!」
主人をあんた呼ばわりしておいて、はたとトウリは気づく。
「どうして、リット様は遠方の国のお菓子を知っているのですか?」
「昔食べたことのあるからさ」
「どこで?」
「うん?」
リットが人差し指を唇に当てた。
「秘密」