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ゴブから始まるヴァンパイヤロード  作者: とかじぶんた
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第62話 恩返し

 「それじゃぁ、御返しは何が良いだろう」


 推薦状をもらい受けた側は、相手の当主へご当地の名産品なり、貴重な品を献上する習わしがあるとのこと。


 「主、アインス村だとミスリルでも十分かと思います」

 「そうなんだ・・・ナスカ、どれくらい滞在できる?」

 「ん〜・・・1ヶ月くらいは滞在するよ」


 簡単な朝食を終え、館を改装して作ったミーティングスペースでナスカ、俺、アント、それとなぜかオトハ達3名が話し合う。テーブルも椅子もアイルランダーで買ってきたお気に入りの家具である。藁の家に住んでいた頃と比較すると文化レベルは確実に上がってきた。


 「1ヶ月もいたら俺たちの食糧が持たない。ほとんどイナゴだな」

 「ちょっと!!流石に今朝は食べなかったでしょ?昨晩は・・・ごめんなさい」


 オトハ達は俺がこんな美人(ナスカ)に冷たい対応をしていることに驚いているみたいだが、以前のナスカを知っている俺とアントからすると妹感はどうしたって抜けない。ちなみにソウイチロウは既にナスカに恋堕ちしている。あほか。


 「まぁ、食糧問題はなんとかなるだろう。森は豊かだし。それにしても1ヶ月か・・・。アント、武具とかでも差し支えってあるかな?」

 「主、”刃向かう”と捉えられない武具であれば問題ないかと」

 「じゃぁ、俺が作るから後で判定お願いね」

 「ねぇ、私のも作ってよ」

 「・・・」


 ナスカの要望には答えず、そのまま席を立ちひと伸びをして中央広場へと向かう。アントも自分の厩舎へと向かっていった。それぞれ各自でやるべきことをやろう。


 「いい度胸ね・・・この広場がちょうどいいわ」


 ナスカが中央広場に着くと物騒な発言をしている。背後からの圧が上がっている。


 「あのミスリルソードってジグさん作?」

 「そう!!ジグが『ゲイン様には負けられてません』って珍しく武器を造ってたよ」


 うふふふと思い出して笑うナスカは別人だった。薄ピンクのぷりっとした唇、元々綺麗な瞳はそのままで顔もシャープな輪郭になり見事な大人である。身長も伸びていてカナデと然程変わりない。



 「手紙に書いてた外遊(がいゆう)ってどうなったの?」

 「えっ?いましてる最中だよ?」


 首を傾げてこちらに向き直るナスカに少しだけドキドキした。やっぱり美人は何しても美人なんだな。・・・『俺にはアンさんがいる』を心で5回唱え、さらに絶対防御のために『ナスカはちびっ子だ』を5回更に唱える。


 そんな俺を理解していないのと察知したナスカが言葉を続ける。


 「魔族領にできた新興の集落を片っ端から回ってるの」

 「それって戦闘するってこと?」

 「そりゃそうよ。私と戦って認めたらパパの手紙(推薦状)を渡す」

 

 自分で聞いててバカかと思ったがナスカを一人で回すってのは相当覚悟がいると思う。


 「なぁ、ナスカ。俺が弱かったらどうしてた?」

 「潰してた。・・・っ、でも無理かなぁ」


 ナスカが腕を頭の後ろで組み空を見上げる。俺もつられて見上げると晴天で気持ちの良い日だ。魔族の森のこの辺りは晴天が多く、湿気も低く今のところ過ごしやすい。


 「だって命の恩人だし?」

 「いや、そんな大層なもんじゃないだろう」

 「2回救われてるよ」


 ナスカがなにか小さい声で呟いていた。


 「なぁ、ナスカが負けたらどうなるんだ?」

 「相手の良いようにされるだけだ」


 そこには笑顔もなくまっすぐな瞳を向ける戦士が立っていた。あんなに小さかった(俺もだが)ナスカが急に大人になったことに驚くも、その決意に溢れた表情に何も言えない。


 「大丈夫よ。これでも私強いから」

 「そりゃそうだが上には上がいる」

 「もちろん、そうだけれど、出来たばかりの集落でそこまで実力あるのって----」

 「あのさ、俺と戦闘しない?」

 

 ナスカは俺が被せた言葉が冗談だと思ったのだろう、一瞬、バカにしたような顔をした。俺の意図が分かったのか、ナスカはさっきと同じく戦士の顔に戻る。


 「昨日の場所でいい?」

 「あぁ、そこでお願いしたい」



◇◇◇◇◇◇◇



 「準備は良い?」

 「あぁ、俺はいつでもオッケー」


 屈伸やアキレス腱伸ばしを終え、身体の魔力循環を高めていく。遠くで鳥の魔物の鳴く声が聞こえる。索敵範囲に敵らしきモノは無い。厩舎に行ったアントも事態を把握したらしく門まで来ており、オトハ達3人と一緒にいるのが見えた。


 「ナスカ・アブリュートよ」

 「ゲイン・シュバルツだ。受けていただき感謝する」


 お互いに名乗りを上げる。迷いはナスカには全く無い、少なくとも俺には感じられない。すぐに戦闘が始まる。



 ナスカのミスリル・ソードが振られる度に森が拓けていく。愛剣(サイン)でなければ対抗できなかった。お互いにジグさん制作の剣のため、武器の差はそれほどないだろう。



 間合いが開くとすぐに着地点に『フレア・ボム』が飛んでくる。湖にぶっ放した時とは大違いの熱量とスピードを持って向かってくる。


 「『サンク・ウォール』」


 光属性の重壁魔法で軌道を逸らし、間合いをさらに詰める。滑らかに弾いたフレア・ボムが後方で爆発音を上げる。魔法を簡単に弾かれたナスカが驚いている。



 すぐに剣を袈裟斬りに振るう。ナスカはその剣を弾くよう自分の剣を合わせてきた。読み通りの反応に右手持ちに切替、剣がぶつかり合う瞬間に手を離す。左腕に魔力と風魔法を乗せてガラ空きになったボディーへ打込む。ナスカの肋が折れたのが感触でわかる。あまりに不快だ。


 そのまま吹き飛ぶナスカに身体強化を最大限に使い追撃する。2発、3発と空中コンボが実戦で決まる。ハメ技は大嫌いだったが、少しでも短く終わらせたい。右蹴上、ショートアッパー、左肘撃ち、次々に練撃をナスカへと打込む。



 ナスカの身体強化が切れたのを感知し、そこから5発入れたところで攻撃を止める。自分が肩で息をしていることを自覚した。村の方でカナデがずいぶん前から叫び続けていた。



 ゆっくりと大の字で倒れるナスカへ近づいていく。両腕は辛うじて繋がっている状態で、両足はおかしな方向を向いている。


 「・・・ナスカ、俺の勝ちだ」

 「・・・」


 支えにならない腕を風魔法の補助を使い、上半身だけゆっくりと起こす。


 「なんだ、できるんじゃん」

 「昨日なら負けてた」


 ナスカと模擬戦をやって自分の身体と感覚のずれを修正できた。昨日、ナスカは俺に手ほどきしたことくらい、いくらバカな俺でも気付く。


 「参りました」


 ゆっくりと笑顔でナスカは言う。


 「じゃぁ、終わりな。『クリーン』、『リカバ』、『ヒール』」

 

 すぐに青白い光に包まれ、ナスカの腕を元通りに繋げる。足も腕もいままで自分が模擬戦で体験してきたので治療手順に迷うこともない。


 「109勝1敗ね」

 「あぁ、1勝109敗だ」


 治療を終え、立ち上がるナスカに手を差し伸べる。ナスカはペシっと軽く叩いた後、頬を膨らませながらも手を取り立ち上がる。仕返しにナスカについた土埃を強めに叩く。


 「エッチ!」

 「・・・はぁっっ!!?」


 ナスカがベッと舌を出し、小走りで村へと走っていく。『戦闘中じゃなくてよかった』・・・完璧にナスカの言葉に固まった自分を再起動し村へと歩きだす。門に着くと号泣していたカナデが俺に強烈なビンタを張った。





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