第5話 釣りだけですまない
評価&ブックマーク、ありがとうございます!!
気分はヒャッハーです!!!(´∀`)/
「ゲインは凄いな!!これまで魚をこうやって取るやつを見たことないぞ」
ナスカの釣りは少しずつ様になってきて釣果はすでに20匹を超えていた。最初の頃こそ、釣れなかったり、釣り上げた魚を途中でバラしたりしたが、拠点で遭遇したときの無表情っぷりが嘘のように表情がコロコロと変わって面白い。いまも水色の頭は、上機嫌なのか左右に揺れている。
「ナスカはいままで魚をどうやって取ってたんだ?」
「そりゃ魔法だよ」
なにをアホなこと言ってるの?くらいのノリで溜息まじりでナスカが答える。
「何の魔法使うの?」
「えぇ〜、これ以上獲ったら湖の魚減るじゃん。あとで怒られるからヤダよ」
「魔法名だけ教えてくれ」
「仕方ないな。『ファイヤ・ボム』ってほらっ!!」
すぐに上空に信じられないサイズの爆炎の玉が浮かぶ。ゆっくりと湖に落とすようナスカがコントロールしている。
「うわぁっ・・・」
「ゲイン、早く逃げろ!!!あぁ〜、パパに怒られるぅ!!!」
ナスカには申し訳ないがお父さんに会う勇気は持ち合わせていない。アントの背に飛び乗り、両脇を足で叩きダッシュで現場から逃走する。ナスカが逃げろ!と言うほどだ、衝撃も相当だろう。
・・・
「・・・あれ?」
いつまでも予想していた衝撃は起こらず、アントとともに立ち止まり湖を振り返る。遠目には水面には何も変化はなく、ナスカが両膝をついて畔に座っているのが見える。
「アント、魔法どこいったか分かる?」
「主、さすがにのん気も度が過ぎると不味いですよ」
目の前に急に紳士が現れた。息を飲み込み、危うく叫び声をあげるところだった。
「ほほぉ。驚いたのに声を漏らさないとは感心です。初めまして。お名前を聞けますか?」
目の前の男性は、森に不釣り合いのシワのない白いシャツ、ネクタイがわりの細い赤い紐をつけていた。下半身は見るからに高そうな黒ズボン。砂埃で汚れている箇所はなく、一瞬で近づいてきたとは到底思えない。
「ゲイン・シュバルツと申します」
礼儀としてお辞儀でいいのか分からないがアントから降りて挨拶をする。アントも俺にならったのか両膝を折り、地面に伏す。弱い主で申し訳ない。
「本当に名を教えるとはね・・・。意外です」
感心があるのな無いのか、紳士の視線の先には俺ではなくナスカの方向を向いていた。ゆったりとした動作だが、こちらへの圧力はまったく減っておらず、戦っても傷どころか汚れひとつ付けれそうな気がしない。いつのまにか風も止み、樹々さえ呼吸を控えているような感覚に落ちる。
「あっ・・・あの、ナスカは無事ですか?」
「自分の命の心配はしなくていいのですか?」
なんとか絞り出して声を出す。ナスカは少なくとも悪い子では無かったし、一緒の時間はいつものノリだけの人間関係じゃなく、久しぶりに友達といえるような相手と過ごせた。もちろん、少年と最初遊んでいた気持ちだったのでロリではない。断じてロリではない、そこは強く否定する。
「もう自分の命はどちらに転がるかわかりません。せめてナスカがあの魔法で怪我していなければと」
半ば諦観の域に達しているのかもしれない。魔物だからか、絶対の強者を目の前にして逆らおうとか逃げようとすら思えない。絶対的な力の、生物としての格の違いが目の前に立っている。強いからキレイなのか、キレイだから強いのか分からないが、紳士はとても整った顔をしていて、俺の理想のヴァンパイヤ に近かっ・・・えぇ!!!!
「あの、大変失礼かと存じますが、1つだけ死ぬ前に確認をさせてください!!!!」
静寂が俺の焦り声で崩れ去る。アントは口先で俺の腰蓑をグイグイと引っ張っている。邪魔するな!!!どうせ死ぬなら話くらいさせろ!!!!
「貴方はヴァンパイヤでいらっしゃいますか!!!?」
想像以上に声がデカかったのか、ナスカが立ち上がりこちらに向かってくるの気配がする。頼むからこちらに来ないで欲しい、自分の好奇心を優先するが全滅はさすがに避けたい。
そんなことを考えていたら紳士が急に表情を崩し爆笑した。
クッ、クックック・・・・クハハハハッ!!
「ゲインと言ったな。おまえ、珍しいだけじゃなく、常識も無いんだな」
ひとしきり笑い終わったところで、屈んでいた体勢からこちらを見る紳士が言う。涙をそこまで流さなくても良いと思う。
「ねぇ、パパ!!!ゲインは友達だからね!!!変なことしないでよ」
「ナスカ、君が外にでて遊びまわっているのは知っていた。少しずつでも常識を覚えて欲しいと考えていたから許していた・・・。だが、こいつはダメだ」
「パパッ!!」
「常識がなさすぎる」
そう言って悲しげな表情になったナスカのオジさんにより、俺の意識はブラックアウトした。視界のはじにナスカの泣きそうな顔が見えた。
◇◇◇◇◇◇◇
目が覚めると見知らぬ天井があった。「初めて文化的な物を見たな」と思う一方で、気を失うまえの出来事を思い出す。多分、手刀だったと思う。いつでも首を斬り落とせる絶対的な力量の差を感じた。あまりに鮮明な感触を思い出し身震いする。
「気がつきましたか?」
「ヒッッツ!!!」
「あら、すいません。驚かせてしまいましたね」
いつから居たのか、メイドの服を着た女性が立っていた。目が笑っており、驚かせるつもりで声をかけたのが分かる。
「すいません、キレイなベッドを汚してしまいました」
「大丈夫です。体を拭かせていただきましたから」
「ひぃいいい!!なにそれ!!!!」
嬉しそうに微笑む女性の視線を感じながら、自分の状況を確認すると腰蓑ではなく、きちんとした服に着替えさせられている。
「・・・なにもしてませんよ。多分」
メイド服の女性に視線で訴えると不安しか感じさせない言葉が返ってくる。勝手に連れてこられ、着替えまでさせられていても文句を言える立場には無い。
「ゲイン・シュバルツと言います」
お辞儀をすると初めて微笑み以外の表情を浮かべた。
「これはご丁寧に。私はアンです。貴方のメイドとして手伝うよう当主から承っております」
アンがヨーロッパの貴族みたいなスカートの端を摘む動作をする。カーテシーっていうんだっけ?
「アンさん、うちのバカ鹿のこと知ってます?」
アンさんは僕の質問に答えず、木製のドアを開き先を歩いていく。廊下は左右に分かれており、天井はアーチ型で結構な高さがある。これだけでもナスカのオジサンの身分が高いことが分かる。そんな俺の様子を知ってか、前を歩くアンさんからクスッと息が漏れた。




