第57話 制作と紹介
ブクマ&評価、ほんとうにありがとうございます。
オトハの告白もひと段落し女性陣2人はキャッキャとはしゃいでいるが、ソウは腕を組み眉間に渓谷を刻んでいる。その対比がものすごい「俺の子なのか・・・」感が出てきて勝手に想像すると吹き出しそうになる。
「俺が言うのも何だけれど」
切り出した俺に3人とも注視する。
「生活費や養育費は絶対に必要だし、回復魔法が使えるオトハが稼げるのも分かる。ただ、身の安全のためには後ろ盾てが必要だと思う」
それから俺はオトハにポルテ会長を紹介することを伝えると、カナデが「ただのイチャコラじゃないんだな!!」と背中を叩いてきた。次言ったら街路にぶん投げてやることを静かに誓う。
「ポルテ会長なら悪いようにはしない・・・と思う」
「なんだよ歯切れ悪いな、大丈夫か?」
「カナデより大丈夫でしょ。ゲインの人の見る目は信用できるわよ」
カナデが晩餐のサラダを口にしながら答える。俺のことをそう思っていたことは意外だった。今日も食堂をメイプルが忙しく駆け回っている。よくマスターとメイプルの2人で回せるものだと感心する。
「メイプル、もう少ししたら出してくれる?」
「うん、いつでも声かけて!!準備はすぐできるからぁ」
俺はテーブルに並べられたジョッキにウォーターで水をそれぞれ注ぐ。3人ともそれぞれの席で「何するの?」と不思議そうな顔で俺を見ている。俺は木のジョッキを軽く爪で弾き、チューンングを済ませる。袖を一応捲ってしておく。
「おっっっし!!オッケ。メイプル、おねがーい」
「はーーい!!」
メイプルがホールケーキを俺たちのテーブル席へと運んでくる。3人とも急に現れた懐かしい物体に3者3様に驚いている。
キッキ、キーキ♪
キーキー♪
ハッピバースデー オトハノ子ぉ
ハッピバースデー オトハノ子ぉ
ハッピバースデー オトハノ子ぉ〜
ハッピバースデー オトハノ子ぉ〜
「はいっ!!もう1回!!!!」
俺の独奏と歌詞を覚えたカナデが2回目を合わせて歌う。3回目はさすがにクドイので辞めたのだが、ソウイチロウが滅茶苦茶悲しい顔をしていた。非常に申し訳ないが、ガチめに悲壮な顔のソウイチロウをいじり倒させてもらった。2回目でノッて来ないおまえが悪い。
少しだけオトハの目が潤んでいたのでソウイチロウが炎上するのは丁度良かった(ヲイ)。
「すごいね!!よくこんなの作れたわね」
「俺とメイプルの合作だからね。ありがたく食べるんだよ」
俺が3人にドヤ顔をしてメイプルを見やる。メイプルも胸を張って偉ぶっていてかわいい。頭をつい撫でてしまうと頬を赤くして厨房へ駆けて行ってしまった。
「あのポチャが女口説きまくってるのが草」
「幼なじみが巨人になってて壺」
「てめぇえええ!!」
「あと、ソウイチロウが劇画漫画キャラにしか見えなくてウツ」
「それ私も思ってた!!」
そうして再会2日目の晩餐も楽しく過ぎていった。
ケーキは意外に甘党なソウイチロウとカナデで取り合いになった。最終的には身体強化しながらアッチ向いてホイをする2人に食堂は盛り上がる。俺はそれを見てゲラゲラ笑いながら、冒険者ギルドでの取り合いと何が違うのか考えてしまった。さすがに冒険者ギルドはもう出禁だよなぁ(遠い目)。
部屋に戻ると頭で理解しているのにアンさんがいないことにガッカリする。「ゲイン様、すぐに戻ると言いましたよね?」とかメイド服着て、気配消して驚かせて欲しかった。
◇◇◇◇◇◇◇
さすがに二日酔いを迎えることなく、清々しい朝を迎えることができた。昨日、俺はここから大人への道を歩んだのだと煩悩一色に朝から染まりそうになる。まぁ、十代ですし重大ですけれど何か?
「今日は朝からイチャコラしてないんだな」
カナデは朝からほんとうに口が悪い。気持ちのいい朝なのにスウィートバターを5層も塗られたトーストみたいな気分になる。俺は表情だけでカナデに返事をする。
「なんかイケメンになってるし、俺TUEEEで調子に乗ってないか?」
「カナデ、口悪すぎ。言ってないだけで、おまえらに会うまで3回はガチで死を覚悟した」
俺の言葉にカナデがビクっっっと肩を上げ、土下座してまで申し訳ない気持ちを伝えてきた。まぁ、憎まれ口叩きながら学校生活を送ってきただけに気持ちは分かるけれど。
「とりあえず、おまえらに会えたのは良かった」
「うん、ありがとね。私達、オトハのこと気がついてなかった」
妊娠初期は分かりにくいだろうし、オトハも人に相談を軽々しくするタイプではない。特にソウとオトハが相手なら尚のこと言わないだろう。
「父親はこのこと知ってるのか?」
「知らないと思う」
「俺が会ったら言ってもいいかな?」
「う〜ん・・・オトハに確認した方が良さげ?」
カナデの言っていることが正解だろう。ただ、確認したところで「絶対に言うな」と言われるのが想像つく。まっ、どうせアイツだろうから問答無用で会ったら言うけれど。言わなかったら俺が殴られるだろうし。
「これからどうするの?」
「えっ、私のこと?オトハの出産には立会いたいし、冒険者としては実力をあげたい」
「そっか。がんばれよ」
「ええっ、ちょ、それ冷たくない?」
身体を動かし終え、食堂へ向かう俺の背中へ身に覚えのない罵声が飛んできた気がした。
「メイプル、おはよー」
「ゲイン、おはよー。今度、ケーキはいつ作る?」
朝のメイプルはこの宿のビタミン剤だろう。横の席にドガっと座る女子にも是非見習ってもらいたいものだ。ケモ耳は後で触らしてもらおう、大事なことを忘れていた。
「ケモ耳、あとで触らせて」
「いいよ、ただ条件があるから」
「いや、問答無用だよね?」
モグモグとメイプルが運んできたパンとスープを食べながらカナデと朝食を進める。俺がピンク頭でもイケメンでも無く、カナデが143cmでケモ耳も無かったら1週間に1度はある日常だった。親の都合でどっちかが朝食にお邪魔するくらいの腐れ縁である。
◇◇◇◇◇◇◇
オトハを連れてポルテ商会に向かうとなぜかカナデまで付いてきた。ご機嫌で口笛も吹いていたので無視することにした。受付でアポ無しで申し訳ないことをネーリスさんに伝えると、満面の笑みで「ゲインさんの訪問は最優先事項として扱うよう言われてます」とのこと。すげぇ優遇されている。冒険者ギルドは自主的に出禁になったのに。
「で、次はなんだ?」
もうポルテ会長は俺と向き合って座っているのに目も合わせようとしない。いやぁ、信用されてるなぁ(自虐)。
「いや、ポルテ会長、それは〜・・・さすがです」
俺は応接室のテーブルに頭をぶつけるくらい下げ、ポルテ会長へとお願いすることにした。




