第54話 デリバリー
前話のあらすじ
①ゲインがアンさんとエチエチしまくる。
②ゲインのHについていろいろと助言を受ける。
③冒険者ギルドへ約束を守るためケーキ作成。
「うわぁあ!!きれいだね!!」
「メイプル、盛り付けセンスあるな」
息を止めながらドリープを綺麗に描いたメイプル。初めてやったのにパティシエか?と疑うくらい完璧な仕上がりである。側面に俺が描くよりもデザインセンスに溢れたクリームで美を描く。あっ、竹串っぽいので引っ掻き始めた!!
「マスター、メイプルって何者?」
「はっ、俺の自慢の娘意外になにが?」
その髭をむしり取ってやろうかと本気で思うが、いまは違う言葉を送ろう。
「マスターにケーキはあげません」
「お、おまっ、おっおぅ、すぁまぁああん!!」
「許されるとでも?」
アンさんは『俺のために怒ってる』雰囲気を醸し出しているが、自分の取り分確保したいだけって俺知ってる。
「冗談だよ。センスの塊だな、メイプル」
とても嬉しそうにニコニコするメイプル。鼻を手で擦ったのか、生クリームがソバカスのある鼻先についている。なにやってても可愛い看板娘である。こんな子を育てたマスターを許す気にもなる。
「問題は運搬だな、冒険者ギルドは混む時間帯かな?」
「いまならまだ間に合うんじゃないか?鮮度もあるんだろ?」
マスターは調理過程を見ていただけに鮮度が大事なことを理解している。いくら『クリーン』を使っているとはいえ、生卵とか使ってるからね。
「アンさん、これ持っていける?」
「1ホールは余裕です。2ホールは無理ですね」
珍しくアンさんがキッパリと断りを入れる。
「私のモチベが上がりません。転ぶかも」
配達したくないだけかよ!!!しかも食わせたくないから転ぶってワザとでしょ!?
その後、1ホールはアンさんが独占しそうになったが「栄養偏るからダメ!!」と俺に言われ、ハーフホールで諦めてもらう。アンさんは腕を組みながら舌打ちはするわ、足でカツカツとイライラを隠そうともしない。
大人気ないな。
「アンさん、ちょっとこれ見てくれる」
俺はマイ・ミスリル包丁を鞄から取り出し、静かにホールケーキを1/8だけカットする。
「ねっ、3層になって綺麗でしょ?また作れるから持って行こ?」
「はい、かしこまりた」
アンさん、興奮のまま噛んだことにすら気付いていない。尻尾とかあったら絶対に左右に極振りしてるな。
メイプルが小さく「うわぁ〜」と声を漏らしていた。「俺たちは冒険者ギルドに行くから食べてて良いよ」と声をかけると「ううん、待ってる!!」と笑顔で返してくる。メイプル、あなたは天使でしょうか。ヲイ、マスターはフォーク持つな!!!
「マスター、待てなかったら二度と食べさせない」
俺の魔法が効いたのだろう、マスターは首をガックリと下げてカウンターへ腰を下ろした。
「じゃぁ、行ってきまーす!!」
◇◇◇◇◇◇◇
冒険者ギルドに入ると受付にタイミング良くシグルさんがいた。その目は俺をまっすぐ捉えており、過去の俺が逃げ出したのは間違いではないことを知る。
「お待たせしました。ケーキをお持ちしました」
受付のシグルさんだけではなく、俺が冒険者ギルドに入るとカウンター奥にいた女性職員たちが期待の目で見ていた。どういう嗅覚しているのだろう?ストライカーだったら代表に呼びたいくらいだ。
「アンさん、お願いします」
「こちらが(てめぇらには勿体ない)ゲイン様のケーキになります」
極上のメイド笑顔とは裏腹に、アンさんの小声(副音声)の言葉は品性が暴力にタコ殴りされていた。それにも気付かずに女性職員はカウンターから出てケーキを囲む。すでに好奇心と期待に声が弾んでいる。
「ここで食べるわけじゃないですよね?」
一応、サルドさんに確認すべく目を向けると顎でカウンター奥を刺す。どれだけ男らしさを追求してくのだろう、ガチで海賊に憧れてる中2さんじゃないだろうか・・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇
シグルさんを筆頭に2階へと案内された先はギルマスの部屋だった。シグルさんがノックも無しに扉を開け、「ギルマス、ちょっと場所借りるから」と目も合わせず、ギルマスの部屋の奥の扉を開ける。こんな部屋あったんだ?と感心しながら進むと、きれいな食器が収まった棚が壁に並んでいた。
「綺麗な皿ばかりですね」
「ま・さ・に相応しい」
目が血走っているシグルさんは興奮しすぎだろう、席に着くも小刻みに震えている。周りを見ると素早く全員が席についていく。皆、ケーキを凝視しすぎで動く気配はない。本気で俺に給仕させるのね・・・。
「それでは私から給仕させていただきます」
アンさんが優雅な仕草で棚から12セット分のケーキ皿を取り出し、俺が貸したミスリル包丁で素早くケーキをカットする。素人が作ったケーキをカットするのはかなり難しいのだが、まったく気にも止めずに各皿に盛り付ける。その姿になぜか鳥肌が立つ。
「紅茶も合わせて淹れさせていただきます」
誰も答えない静かなテーブルにアンさんの言葉が広がる。12名が席についたテーブルは無言で誰かが唾液を飲み込んだ音がする。アンさんが勝手に紅茶を引き出しから取り出し、手早くティーセットを給仕する。
そろそろ言っていいだろうか、俺が作ったケーキだぞ?
「あ、あの皆さん、俺が作ったものですからね?」
その場の静寂を壊すためだけに声をかけたが誰も反応がない・・・すげぇ俺が馬鹿みたい。
「それではお召し上がりください」
アンさんも俺のことを一向に気にしておらず、皆に声をかけるとフォークが食器に当たる音がする。
とても静かに。
そんなのうまいか?
俺は心からバカ臭くなり、残りのケーキに包丁を入れてお皿に移す。
「はい、アンさん。頂いたら帰ろ」
「ありがとうございます、ゲイン様♪」
なんか今までのアンさんに無かった甘い響きが確かにあった。ほんっっとぶれずに甘味が好きなのね・・・。多分、俺より好きだよな、っていうか俺好きなのも甘味とセットなのかもしれない。俺<甘味、みたいな。
「ゲインさん、今どこから切りました?」
何口か食べて身震いしていたシグルさんが静かに言う。その言葉にケーキに夢中だった皆が一斉に顔をあげて俺を凝視した。
「えっ?そこからだけど?」
「なぜ我々のケーキから取るんです!!!」
「あぁ・・・そういうことか。俺はホール全部あげるなんて言ってないよね?」
作ったメイプルと俺への感謝とか、お世辞でも「美味しい」とか言わないでモグモグ黙って食べている姿は、全く俺に響かなかった。むしろ、俺たちの帰りを待っているメイプル達のためにも一刻も早く戻りたかった。
「「「えぇぇぇ!!」」」
「これで終わりなの?そんな味わって食べればよかった!!!」
「なっ、しかもなんで給仕まで食べてるんですか!」
ガッシャン!!!
床に皿を叩きつけ、俺は残ったケーキを床にばら撒き足で踏みつけた。
「わりぃ、手と足が滑ったわ。あと、二度とおまえら何ぞに作らねぇ」
アンさんの手を笑顔で握り、そのまま静まりかえったミーティングルームを出る。ギルマスが俺とアンさんの顔をみてギョッとしたのが視界の端にうつる。「ギルマス、あとで皿弁償するから」と頭を下げて足早に去ろうとすると、扉の前で「気にするな。こちらこそすまねぇな」とボソッとギルマスの呟きが聞こえた。




