第53話 初体験
エロ分量多めです。
苦手な方は飛ばしてください。
評価、ありがとうございます!!
何度もシーツを握るアンさんに夢中になる。これまでいくども我慢の限界に立たされたが、崩壊した欲情の渦が身体中を駆け巡り快楽が支配する。狭い室内を2匹が獣のように欲望を毟り合い、声を上げる。
アンさんが水が欲しいと耳元で囁く。『ウォーター』で口元へゆっくりと運ぶとアヒルみたいに口を尖らせて飲み出した。
「あははは、可愛い」
「ゲイン様、私をバカにしてますね」
「なにもバカにしてないです」
少し笑ったせいか自分を一気に取り戻す。さっきまで野獣のようにアンさんに絡んでいたので、痣とか出来ていないか心配になる。
「あまり見ないでください」
隠す面積があまりに小さい毛布を被るアンさん。その姿に沈みかけた火種が萌えた。「でえぁあああ!!」と俺は布団に再びダイブする。
・・・
「あぁ、もう流石に無理です。もちません」
アンさんのやさしくもキッパリと意思が込められた言葉が届く。俺は天井の木目をボォーッと見ていた。この宿って築年数どれくらいなんだろう。
「ゲイン様、ひとつ伝えておきます」
「はい、なんでしょう」
気怠い身体を起こし、きちんとアンさんに向かって正座する。
「娼婦とか呼ばないでください。間違いなく死にます」
「は?」
そこから色々と、本当にいろいろと時間をかけて理由を教えてくれた。すべて納得できる内容で、俺はただただアンさんに感謝し、何度も首を縦に振った。
「初モノ、ご馳走様でした」
少しだけ敬意を払っていたのに最低の発言である。言葉と一緒に上がった口角と目が必要以上の妖艶さを醸し出す。
「お粗末様でした」
それでも俺はいつもの展開を予測し、潔く三つ指をつきアンさんを見送る・・・つもりだったが、一向にアンさんは帰る素振りを見せない。
「えっ?」
「なんですか?」
「あれ?帰らないの?」
バシィイイ!!
初めてアンさんにビンタされそうになったが慌てて両手で受け止める。
「ゲイン様、ここはビンタで紅葉をつくるところでしょう?」
奥歯がガチガチと鳴りそうなのを食いしばって踏みとどまっている。両手でアンさんの左手を受け止めたのだ、いまは利き腕がフリーである。俺、キング・オブ・ゴブリンなんだけど、膂力で女性に負けそうです。
「そんなに都合のいい女に思われてます?」
「えっ、違うよ。寂しいけれど、いつもの展開で帰るんだろうなって」
腕の筋肉がミチィィって小さな悲鳴を上げながら会話を成立させる。
「お、おれ・・・アンさんのこと好きだよ」
急に腕の力が抜けて俺はベットから床に叩きつけられる。合気道の投げられた人の視界を学ぶ。文句を言おうと背中を摩りながら振り返るとあのアンさんの顔が紅潮していた。
「うわぁ〜、アンさんっ!!!かわいい!!ガチ好き!!」
俺の畳み掛ける言葉に文字通り真っ赤になり、さらに重ねて褒めちぎると最終的には布団にうつ伏せになり毛布に丸まって隠れた。
俺の初勝利(対アンさん)である。
それからゆっくりとアンさんが復活するまでに部屋を『クリーン』、『キュア』(?)で清掃し、集落の館に少しだけあった紅茶を入れる。カップは即席の土魔法で生成する。
「アンさん、お茶が入りました」
「うぅ、メイド失格です。お嫁に行けません」
「俺が貰うからいいよ」
あぁーーーーー!!!
アンさんがまた小さい悲鳴を上げ、毛布にうずくまった。まるでボードゲームの”スタートに戻る”みたいな再現っぷりだ。いまなら大体のことを寛容に過ごせそうなほど気分がいい。完勝である。
◇◇◇◇◇◇◇
アンさんが落ち着くのに更に時間を要し、食堂に降りるとすでにお昼を食べる時間帯だった。
「メイプル、お昼2人分お願いできる?あと、宿も2名分支払います」
「は・・・はい」
飛び込んできたときの神対応(ドアは閉めよう)に『気にしていない』と思ったが違ったようだ。さすがに10歳前後で見るには刺激が強すぎる。それでもすぐにカウンターへ行き、二人分のトレイを持ち運んでくれる。
「ここの昼食、美味しいんだよ」
「はい、『いただきます』」
「あっ、覚えてくれてたの!?」
下を見たままのアンさんが頬を赤くする。ヤバすぎる。なにこの可愛い生き物。
それから会話は成立しそうにないので、マスターの美味しい昼食をもしゃもしゃと咀嚼しながら静かに終わる。周囲の喧騒とは全く違うテーブルで、会話は全くなかったけれど、いままで一番楽しく、嬉しい昼食に違いはなかった。
◇◇◇◇◇◇◇
「アンさん、お菓子作りするからお店教えて」
「はっ!!かしこまりました」
やっと俺の声にまともに反応を返す。マスターに厨房を使用したい旨を伝えたところ、利用料を支払い、使用後に『クリーン』、『キュア』を厨房全部にかけることで交渉は成立した。
「必要なものはなんでしょうか?」
「上質な砂糖、小麦、卵、あとはフルーツ、コーヒー、紅茶、もしあればチョコレート」
「商会と市場・・・ですね。順に回ります」
外に出て並んで歩くことが思いのほか新鮮だった。考えてみれば、アンさんとアイルランダーで一緒にいるところは誰にも見られたことがなかった。
「手握っていい?」
意地悪で聞いたつもりが、甘味に燃える女性にはまったく聞かないらしい。アンさんから俺の手を痛くなるほど握り、一気に加速して市場まで引っ張られた。もうボーナスタイムは終わりのようだ。
市場で買い物する間、冒険者ギルドに甘味を届けることになった経緯を説明する。甘味を独り占めできないことを知ったアンさんの威圧に、通りを走っていた馬が鳴き、近くを歩く冒険者が膝をつくアクシデントがあった。
「結構な量をつくりますから問題ないですよ」
俺は目下、メレンゲ作りに高速回転で風魔法を使っている。腕力も相当なレベルなので疲れることは無いが、借り物の厨房で器具を壊したくはない。厨房にはアンさんだけではなく、メイプルと(なぜか)マスターもいる。3人とも目を輝かせすぎだと思う。まだ、メレンゲだぞ?
「美味しいフルーツケーキを作るからね」
3層のホールケーキを3セット作るだけの材料を買ってきている。ひたすら混ぜる、ひたすら焼く、ひたすら切るシリーズを繰り返せばできるだろう。氷も準備オッケーである。焼き上がり後のデコはメイプルにも手伝ってもらおっと。
そうして出来たケーキに1番目を輝かせたのはマスターだった。




