第50話 小さく無い違和感
キイィィン!!
キイィィィン!!
キイィィィン!!
槌を振るい、エグザの剣をホワイトミスリルを使って接合させていく。その際、エグザの剣の部位の熱も同じく上げてやり、融解手前で継げていく。結果、見た目はキレイになったものの、とても武器として命を預けられるものではなかった。
「ダメだっ!!!エグザ、すまんが素材として再利用していいか?」
半ば断ることを許されない雰囲気が出ていたのだろう、エグザは少し驚きながらも縦に頷く。
「うっっし!!やり直す」
腕をまくり気合を入れ直す・・・ところでエグザのお腹が鳴った。
「その前に飯だな」
「ごめんね、ゲイン」
横を向くエグザは少しだけ頬が赤くなっている。こっちが素なのかよく分からない。アントもいつの間にか俺の横に控えているが間違いなくご飯だからだろう。ご飯については本当にしっかりした奴である。
「主、なにか失礼なことを考えてないか?」
「いや、なにも」
半眼で俺を見つめるアントに負けて視線を外し、集落の中央へと移動する。
「ご飯食べたいんだけれど何かある?」
「はっっ!!こちらでございます」
鬼人のノルディーに話しかけると勢いよく館の中庭へと案内される。集落の大半はすでに集まっており、すでに周囲には良い匂いが漂っている。どうやら俺も空腹だったらしいが鍛冶に集中してて気がつかなかった。スープの入った木の器を受け取り、丸太で作られた席に着く。隣にはエグザが同じように座る。
「ねぇ、ゲイン。わたしの調査集落がここって知ってるよね?」
「あぁ。で、なんの調査だったの?」
「ここにヴァンパイヤがいるって話だったの。その調査だったんだけど」
どこまで話すか迷いどころだ。初対面だが今のところ滅茶苦茶素行が悪いとかでは無い。冒険者ギルドでは事務職員(女性)が避ける程度には有名なのは分かる。もし、俺がエグザより弱かったら恐れ以外の要素は見出せない。
「そのヴァンパイヤは俺が倒した」
「へっ?」
俺の話に頭が理解できないのか、エグザはそのまま固まっている。スープが入ったお椀がゆっくりと傾いていくのが気になる。
「あつっ!!」
「火傷に気を付けろ。『ヒール』、『クリーン』」
地面に具材は残るが火傷にも鳴らず、服にシミも残らない。それにしても野菜も肉も結構入っていて豚汁みたいで好きな味だった。アントが桶で食べているが結構衝撃的である。
「これは誰が作ったの?」
「俺が作りました」
ノルディーが緊張した面持ちで自信なさげに手を上げる。これまでの統治者の性格を考えると今は仕方がないのか・・・。美味しかったことを伝えると笑顔で喜んでいた。隣にいたヤツらまで一緒に喜びノルディーを小突いていた。
「そうそう皆に言っておくことがある。この集落では全員平等、衣食住は協力しあう、武器は俺も作るし、鬼人で作れる奴も提供してやってくれ。苦手な分野は助け合い、得意な分野で活躍してくれ。質問ある人?」
「ご飯はどうしたら良いでしょうか?」
おずおずと手を挙げたのはノルディーだった。結構、内気に見えたがオープンなタイプなのか。
「アント、答えて」
「狩が得意な連中はまとめて行け。解体、調理は得意なやつが対応しろ。力ないものは皮の生成や薪を拾え。あと、ラズベリーを見つけたら絶対に持ってこい。絶対にだ!!!」
私情が随分と強く入っているものの、概ね伝えたいことはあっている。食い意地だけは安定のアントだ。
「そういうわけだから食べ終わったら片付けも協力してね。仕事していない人がいないけれど、皆がそれぞれ担当したら楽しいと思うだ。誰かが一番偉いってわけじゃないからさ、もちろん俺も含めてね」
もぐもぐと食べながら話しているのが行儀悪いが、考えていることを伝えなければ永遠に統治者扱いである。
・・・あれ?俺の言葉には誰も反応しない。
「あ、あの、ゲイン様はこの集落を見捨てられたのでしょうか?」
「アント、翻訳」
「主、集落の皆が平等というのは統治者であるゲイン様を頂点として成り立たなくなる」
「続けて」
「・・・魔族の集落において統治者がいなくなれば別ですが、統治者がいる集落では絶対にあり得ない」
魔族はいろいろと自由そうなのに規律に厳しいところは、むしろ人族よりも統治意識が高いのかもしれない。
「アント、基本的なこと聞いて良い?」
「ゲイン、貴方がここの統治者なの!!!!」
俺のアントへの質問は甲高い声で遮られる。皆、エグザの方を見ており、さっきまで平穏な昼食だったのに殺気だっている。ソウベエといい、どうもうちの集落の人たちは戦闘狂なところがある。俺がわざとらしく咳払いをして沈黙を壊す。
「んと、エグザ、それ後な。アント、集落をたくさん統治している魔族って何て呼ぶ?」
「主、本気で聞いてます?我はまだ死にたくは無いのですが」
「分かった、『魔王』様なんだな。了解。エグザ、ここの統治者は俺だ」
俺の言葉に今度はアントが固まり、エグザが勢いよく捲し立てる。
「ねぇ、ヴァンパイアはどこに行ったの?」
「俺が倒した」
俺の言葉にエグザは立ち上がり、中庭を小走りに横切るとそのまま館を出て行った。
「アント、エグザの相手を3日程度してあげてくれない?」
「それは模擬戦込みでしょうか?」
アントの言葉に冗談と思いテキトウに返そうとしたが、目があったアントはガチであった。こいつら案外『拳で語らってからの友情』の脳筋な感じなのだろうか。
「あぁ・・・それは任せる。ただし、殺し合いは無し。怪我したら戻ってこい」
「承知しました。ただ、打たれ弱そうなので加減が難しいかもしれません」
まぁ、アントなら勝てる。冒険者ランクAって思ったほど実力がないのかもしれない。俺の中の中二は「ランクAはランクSよりもガツガツしていて、Sを超えるヤツもいる」と囁いているが現実との乖離を認めざるを得ない。
◇◇◇◇◇◇◇
満足する昼食を終えると鍛冶場に戻る。エグザから許可を貰ったので、修繕した剣と他の素材を炉へと入れる。まずは板金作成から気合を入れてやり直す。もう剣の鍛造は明日することにしたので、テキパキと行動を起こす。
「ゲイン様、見学していても宜しいでしょうか?」
サキュバスのスピカが臣下の礼を取っている。俺は「気軽に見て良いから」と声をかけると大ハシャギした。サキュバスに鍛冶っていまいちピンと来なかったが、重たいやっこを持たせてみると平気な顔で器用に使っていた。いろいろと思うことがあるけれど、雑念を捨てて目の前の仕事に集中した。




