第49話 可能性とは別の話
誤字指摘ありがとうございます!!
非常に助かります。(_ _ )
評価もありがとうございます!!
エグザをデートに誘うと即答でOKの返事が来る。鼻歌まじりで俺についてくる姿に後ろめたさを感じる。
「ゲイン、大丈夫だよぉ。わたしは気にしないから」
少し後ろを歩いているエグザが見透かしたように声をかける。
「まぁ、美人は美人なんだよな。戦闘狂すぎてドン引きするけど」
「戦闘の高揚感だけが私の生きる意義みたいなものだから・・・」
急に冷静に独り言のようにエグザがつぶやく。口調も朝練のときと同じようにフラットに感じられる。初対面のときはこれほど狂気を抱えているなんて思いもしなかった。
晴天で気持ちの良い風が吹いている。こっちの世界って映画館があるわけじゃないだろうし、何して遊ぶんだろう。
「エグザ、どっか行きたいところってある?」
「どこでも良いよ」
「そっかぁ〜。じゃぁ、ちょっと付き合ってもらうかな」
これまで来ていた道を戻り街の外へ出る。街を出る前に肉串のおばちゃんにからかわれたり、「珍しく二人なんだな」と門兵に言われたりした。おい、おまえら失恋したばっかの俺に色恋の話をするな。
「で、どこへ連れていくつもり?」
エグザと模擬戦をした街道から少し離れたスペースに戻ってくる。
「エグザの依頼ってここから更に西の森の奥だよね?」
「うん、そうだよ。正確にいうなら魔物の森の集落だね」
「じゃぁ、そこにご招待だね」
「へぅ?」
妙な声をあげたエグザをお姫様抱っこで抱える。模擬戦で着けていた軽装鎧も外しており、エグザは見た目以上にかなり軽く感じられた。
「えっ、えっ!!」
焦るエグザについ笑ってしまう。まぁ、そんな反応がさらに面白く、さらに身体強化を行使してグングンと速度を上げる。いまは地面には足はつかず、樹々を抜けるよう蹴飛ばしながら移動している。
「きゃっ!!!ちょ、ちょっとゲイン!!!」
一切の苦情を無視して突っ切るとソウベエが門番をしていた。
◇◇◇◇◇◇◇
「ちょっと、どういうこと!!」
戦闘時以外で初めて怒る姿を見たな、と感心しているとエグザが涙目になっていた。
「そこまで怖かったか?」
「えぇ!!怖かったわ。いかに自分が朝の戦闘で手を抜かれてたか分かったから!!!」
「戦闘?ゲイン様、この女は敵でしょうか?」
「ソウベエ、俺がお姫様抱っこで連れてきた相手を敵認定しないでくれ」
エグザとソウベエがいろいろと面倒な掛け合わせになっている。遠くでアントが伸びをしながら大きなアクビをしている姿が見えた。あれくらい・・・行き過ぎだけれどノンキでいてほしいものである。あっ、あいつ、俺と目があったのにそのまま体勢かえて寝に入りやがった!!!
「んんっ!!・・・ソウベエ、頼んでたのできてる?」
「はっ!!!もちろんです。突貫でご用意しました」
ソウベエの先導に俺、エグザの順についていく。エグザはやっと涙目から立ち直ったが、今度は集落に目を取られて周囲をキョロキョロしていて落ち着きがない。
「ねぇ、この辺の集落って全部こんな立派な家なの?この規模ってすでに村よね」
エグザが独り言なのか、それとも俺に確認しているのか判別つかない声量でつぶやいている。俺はあまり気にせずに目的の場所を楽しみにソウベエの後をついていく。
「こちらでございます、ゲイン様」
「あぁ、ありがとう。・・・おぉ!!すげぇ!!」
目の前に現れたのは鍛冶炉である。もともとは鬼人が自分の武器のメンテナンス用に使っていたが、拡張工事を指示し集落全体の鍛冶炉へと昇格させた。結構本格で、しかも規模だけで見るとギブリの炉よりも大きい。
「随分と立派になったなぁ。結構サイズも大きいね」
「はい。あとは補強する箇所がいくつかあると報告を受けてます」
「おぉ!!で、もう使えるの!!?」
俺の質問にソウベエは直接答えず炉の蓋を開ける。煌々と赤く輝く炭がいくつも敷き詰めてあり、近くには水貯めも用意されている。
「ありがとう!!嬉しいよ」
ソウベエは俺の謝意に頭を下げると集落の入口へと戻っていく。真面目すぎて怖いし、突貫工事ってどの程度のブラック企業レベルなのか把握したい。近くにいた鬼人に目を向けると慌てて逸らしたあげく、ダッシュで逃げていった。ネームドにしたのは俺なのにあからさますぎないか?
「エグザ、折れた剣の修繕させてもらってもいいか?」
「えっ・・・もうバッキバキにされたから修繕しても使い物にならないよ」
ものすごく剣を斬ったことを根に持っているらしい。
「まぁ、完璧に元に戻すのは無理だけれど、ある程度はできると思うんだよねぇ」
そもそもそっちが悪いだろ、と言葉が漏れかかったが、いつまでも過去のことをウジウジするのは生産性が無い。そんなこと言うならゴブリン?ってところから愚痴だらけだ。今は結構満足してきてる自分がいて怖いけれど。
そんなことを考えていると、エグザがしぶしぶ4つに斬られた武器をバックから取り出す。きちんと拾ってカバンに整理されている辺りが剣への意識がうかがえる。俺も渡してきてエグザのように大事なものとして受け取る。
炉の横に鍛冶用に準備されている棚を開けると様々な鉱石が入っていた。
「おぉ、これってホワイト・ミスリル?初めて見た・・・使えるなぁ」
ミスリルだけでも見たことのなかったホワイト・ミスリル、パープル・ミスリル等の図鑑で知っているだけのものがある。どれだけの名産地なんだよっていうか、こないだ貰ってなかったぞ!!
エグザが鉱石に感動している俺の姿をじっと見ている。そんなに見ても何も出てこないし、むしろ近くにいると炉の熱で体力消耗するぞ。
「ふぅっーーーー」
ひとつ長く息を吐きながら丁寧にエグザの剣を並べる。ホワイト・ミスリルを融解させるよう炉に集中すると、すぐに俺の周辺からは音が消え去った。




